皆さんこんにちは。

 前回、婚姻成立後、夫婦間にはどのような人的法律関係が生じるかを紹介しました。
 (前回の記事はこちら:婚姻により夫婦間に生ずる人的な法律関係について

 具体的には、①夫婦の同氏、②同居義務・協力扶助義務、③貞操義務、④夫婦間の契約取消権でしたね。今回は①夫婦の同氏についてより深く検討していきたいと思います。

 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する(民法750条)。民法はこのように定めています。条文上は夫の氏、妻の氏のいずれかを選んでよいとされていますが、夫の氏を選ぶ人が多いというのはみなさんも実感するところだと思います。

 しかし、近年の女性の社会進出にともない、氏の変更は社会・経済生活に不都合をもたらすし、氏は個人の人格権の象徴であり、その変更は人格権の喪失にも等しいという考え方が主張されています。一方で夫婦の同姓を求める人もいますが、法律的に夫婦の同姓に固執する必要はなく、それぞれ各人の価値観の多様性を尊重すべきで、夫婦の別姓は許容されるべきだと主張されます。実際に1996年の民法改正要綱では、選択的夫婦別姓の制度が導入された法案が示されています。

 この点について、夫婦別姓を許容すべきか、やはり夫婦同氏の原則を堅持すべきかは個人の価値観を反映するものであり、われわれ普通の一般人が議論することはいいことでしょう。ただ、仮に夫婦別姓の制度を導入した場合、もっとも難しい問題は子どもの姓の問題と思います。これについて、改正要綱では、別姓夫婦は婚姻の際に子の姓を父または母のいずれにするかを定めるとされているようです。

 ところで、このような制度について紛争の予感がしませんか。たとえば、子どもが生まれた後で、父が、婚姻の際に子どもの氏を母の氏にするといった合意はしていない、または騙されたんだと主張する人も出てきそうです。実際に合意がなかったり、騙されるという自体は生じ得ると思います。他に婚姻の際の合意は勘違いだったり、または強迫されたものである場合はどうなるのでしょうか。

 制度設計においてこのような自体は当然に想定されていることではあると思います。しかし、このような事態が生じたときどのような対処をすべきか、どのような手続を定めるかによって、当事者の利益の実現は大きく変わるでしょうね。しかも、その制度がどのように運用されるかによっても影響されそうです。

 1つの制度を導入するにあたっては様々な検討を加えて、紛争が生じた場合の対処方法も考えなければなりません。難しい問題ですが、これは一人一人が考えていい問題ですし、自分の子どもや孫といった後世のためにも考えるべき問題であるといえますので、一度考えてみるのもいいことではないかと思います。

 それでは、また。

参考文献(「民法親族・相続」(第2版)松川正毅)

弁護士 福永聡