1 離婚の種類

(1)日本の離婚制度について

 日本における離婚制度としては、大きく分けて、協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つがあります。
離婚に関する書籍やホームページ等でも離婚制度としても、この3つが紹介されることが多く、それぞれのメリット、デメリットが比較されたりすることもあります。

 実際、離婚をした夫婦の約99.9%が協議離婚、調停離婚、裁判離婚のいずれかの方法で離婚に至っており、離婚を考える当事者にとっても、3つの方法のうち、どの方法によるのが一番良いかを検討することが重要となってきます。

(2)残り0.1%は何か?

 協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つで離婚全体の約99.9%を占めるということは、残り0.1%の例外があるということです。
 この0.1%に該当するのは審判離婚と呼ばれるものになります。

 審判離婚とは、離婚調停の場で当事者双方の意見がまとまらず、調停が不成立になった場合においても、家庭裁判所が相当と認めた場合に、一切の事情をみて、離婚の申立ての趣旨に反しない限度で離婚に関する判断をするというものです。

 すなわち、離婚調停における話し合いがまとまらない場合、通常は、調停を不成立とした上で離婚訴訟に移行することになりますが、家庭裁判所が、審判離婚が相当であると判断した場合には、離婚訴訟に移行するのではなく、裁判官による審判の形で離婚をすることができることになります。

2 審判離婚とは?

(1)審判離婚が検討されるケース

 審判離婚は、離婚調停が申し立てられたすべての案件が対象となりうるわけではありません。
 審判離婚が検討されるケースとは、前述のように家庭裁判所が審判離婚によることが相当であると認めたときです。
 どのような場合に、審判離婚が相当と認められるかというと、離婚自体の大筋の合意ができて争いが僅かな場合や、早急に解決が望まれる場合などです。

 調停離婚が成立するためには、調停の場において当事者が合意しなければなりませんが、調停を行った結果、夫婦間にわずかな意見のずれがあるだけで、早期に離婚は認めた方がよいといった場合もあり、このような場合に、審判離婚が利用されることとなるのです。

 審判離婚が利用されるのは、具体的に以下のような場合です。

①夫婦間において、離婚をすること自体には争いがないが、財産の分与や子の親権などをめぐってわずかな意見の対立があることによって、調停が成立しない場合
②夫婦の一方が、単なる嫌がらせ目的で調停期日に出頭せず、結果として、離婚や財産分与に関する意見がまとまらない場合
③実質的には離婚の合意があるが、病気などなんらかの事情で夫婦双方または一方が調停成立の際に出頭できないとき
④子どもの親権などの理由で、早急に結論を出した方がよいと判断したとき
⑤離婚に合意できない理由が、相手への感情的な反発のみに基づいているようなとき
⑥当事者の一方が外国人で、自国に戻る予定があるとき

 なお、家庭裁判所の職権で審判されるので、当事者の方に審判離婚をするように求める申立権はありません。
 当事者ができることは、裁判所に対して、当該案件について審判離婚とするように上申をすることになります。

(2)審判離婚はなぜあまり利用されないか?

 家庭裁判所の裁判官による審判がなされた場合、当事者から異議が出されなければ、当該審判は確定判決と同じ効力をもつこととなります。

 一方で、審判が出された後、2週間以内に当事者のいずれかから審判の内容に対する異議が申し立てられてしまうと、理由を問わず審判の効力は失われることになります。
     つまり、審判の効力は当事者の異議によって簡単に失われてしまうものであって、審判の法的効力が強くないことから、実務上、審判離婚はあまり利用されていません。

3 今後の審判離婚

(1)家事事件手続法が施行され、急増している審判離婚

 前述のように、審判離婚は、離婚調停が合意に至らないときに、調停に代わる審判によって離婚を成立させるある意味で特殊な離婚方法といえます。
 そのような特殊な手続であるがゆえ、離婚全体に占める割合も0。1%と低いものとなっています。

 しかしながら、審判離婚が離婚全体に占める割合は以前は今よりもさらに少なかったのであり、2013年の家事事件手続法が施行に伴い、審判離婚の数自体は近年、急増しているといえます。
 具体的な数字でいうと2010年には0.03%程度であった審判離婚の割合は、2015年には0.16%程度まで上昇しており、全体に占める割合としては依然低いものの、その数自体は約5倍に増加しています。

(2)離婚訴訟よりも負担が少なく済む

 審判離婚の数が増えている要因には、家事事件手続法の施行により、審判離婚を利用しやすくなったこともありますが、審判離婚をすること自体にメリットがあるというのも要因の一つといえます。
審判離婚の大きなメリットが離婚訴訟の負担を回避して、夫婦間の離婚に関する紛争を解決しうるという点にあります。

 審判離婚が除外すると、離婚を望む当事者にとっては、協議離婚でも、調停離婚でも双方の条件が合意に至らない場合、離婚訴訟を提起するしか手続が残されていないことになります。
 しかし、離婚訴訟は一般的にかなり長期戦となることも少なくなく、紛争がなかなか終局的な解決に至らない上、当事者にとっても精神的負担は大きいものといえます。
 それだけでなく、訴訟となれば、協議段階、調停段階よりも弁護士費用が高額になることが非常の多く、当事者にとって経済的な負担を伴うことになります。

 本来であれば、離婚訴訟を戦わなければ解決できなかった事件を、審判離婚を利用することで少しでも迅速に解決できれば、当事者にとってもメリットがあるといえ、審判離婚を積極的に利用することで、今後の離婚事件の早期解決が期待されるといえます。

 2013年に施工された家事事件手続法の中には、当事者双方が審判離婚の異議申立を事前に放棄する共同の申出という制度が設けられました。
 すなわち、当事者双方による話し合いのみでは離婚条件の合意に至らず、裁判官の判断を仰ぐ必要があるが、離婚訴訟の負担は避けたいという場合には、審判離婚の異議申し立て権を放棄した上で、審判の形で裁判官の判断による解決を図ることは可能となったのです。

4 審判離婚が選ぶべきかの判断

(1)審判離婚か裁判離婚か?

 例えば、裁判官による審判の判断がなされた時に、審判の内容に異議申立てをするべきか、そのまま受け入れて審判離婚とするかは悩ましい場合があります。
 また、そもそも、審判離婚ではなく、離婚訴訟で争いたいという態度を調停の場において示していくかどうかも難しい判断となることがあります。

 審判も裁判も裁判官による判断であることに変わりはないので、審判離婚ではなく、裁判離婚を選んだとしても、結局、結論はほとんど変わりないということ当然あり得るのであり、そのような場合、審判離婚による早期解決を選択した方が良かったといえるかもしれません。
 一方で、調停の場と裁判の場では当事者が行う主張、立証の内容にも差異は生じてきますので、離婚という重要な問題については裁判の場で後悔がないように主張、立証を尽くした方が良いという側面もあります。

 したがって、審判離婚か裁判離婚か選択するにあたっては、離婚訴訟となった場合にどのような結論になるのか予測を付けながら、当事者本人の意向を踏まえた判断を必要となるのです。

(2)弁護士への相談

 前述のように、審判離婚を利用するためには訴訟という次の段階を見越した専門的な判断が必要となるので、弁護士に相談することが有効といえます。
 結果として、審判離婚を選択しないにしても、調停離婚、裁判離婚を含めた離婚に関する総合的なアドバイスが可能となりますので、離婚問題に悩まれる方は是非一度弁護士に相談することをお勧めします。