自分の妻または夫が不貞をした場合、その配偶者や不貞相手に対して何を望むでしょうか。真っ先に「お金を払って欲しい!」ということが頭に浮かぶ人はあまりいないのではないかと思います。まずは、自分のしたことでどれだけ人を傷つけたかきちんと知ってほしい、謝ってほしい、責任を感じて欲しい、反省してほしい、というようなことを考えるのではないでしょうか。

 しかし、いざ弁護士を雇って相手方と交渉する時には、交渉によって解決できる問題とできない問題があるかと思います。法律の世界では、基本的には責任や謝罪の気持ちというのは金銭に換算されて処理されます。つまり、法的な責任を問うということは「慰謝料として○○円払え」という要求を相手に認めさせるということであり、弁護士による交渉のゴールは金銭的な解決であるということです。

 なぜこのようなことを書いているかと言うと、やはり不貞や離婚というようなトラブルでは、相手への愛情や執着等の色々な感情についてけりを付けたいという気持ちが強いことが多いので、「相手に謝罪して欲しい」というようなことをよくご相談者からお聞きするからです。確かにそれが本当の気持ちなのだと思いますし、そうしてあげられたらいいなと思います。

 しかし、そもそも素直に謝るような相手ではないからこそ弁護士が出てくるような事態になっているわけで、弁護士だからといって、無理やり相手に謝らせることはできません。お金であれば、法的な強制力のある形での約束をすれば(公正証書や裁判での判決等)、相手が払いたくないといっても強制的に支払わせることができますが(もっとも相手に資力がなければ無理ですが)、相手方を目の前に連れてきて謝らせるというようなことは、誰にもできないでしょう。

 だからこそ、それを全部ひっくるめての「慰謝料」という金銭をできるだけ多く支払わせることで、おさまらない気持をおさめてもらうということが弁護士の交渉の中心になるわけです。

 弁護士を通じての交渉は、色々と割り切れない気持ちの部分を全部お金の問題として割り切って処理することだということを最初にご理解いただいている場合の方が、結果への満足度も高くなるように思います。

 また、弁護士としても、当たり前のことですが、依頼者の方は、金銭だけでは割り切れない色々な気持ちを抱えて弁護士に依頼しているのだということを常に考えて、少しでもその方が前に進めるお手伝いができるように仕事をしなければならないと改めて思います。

弁護士 堀真知子