交渉ってどのくらい時間がかかると思いますか?

 実は、この質問には大きな問題があるんです。というのは、訴訟であれば、だいたいこのくらいの期間を要しますよ、と答えられます。しかし、交渉の場合には、どのくらい時間がかかるのかが問題なのではなく、どのくらいの時間を交渉に当てるべきかという方針こそが問題だからです。

 そもそも、まとまる交渉には、「交渉成立」という終着点がありますが、まとまらない交渉は理論的にはエンドレスです。
 当事者のどちからが交渉決裂を宣言しない限り、言い換えれば、もう少しで交渉が成立するのではないかという期待をわずかでも持ち続けている限り、交渉は続きます。したがって、一般的に言うと、まとまる交渉よりも、まとまらない交渉のほうが長引きます。交渉に長い時間をかけたにもかかわらず交渉がまとまらなかった場合の疲労感はすごいですよ!

 ここに交渉の難しさがあります。

 しかも、これに加えて、ビジネス交渉とは異なり、紛争解決型交渉に特有の問題も横たわっています。その「特有の問題」が、さらに交渉成立を妨げ、ダラダラ交渉をゆるしてしまう要因でもあります。
 その特有の問題とは何かというと、紛争解決交渉においては、その交渉の当事者、すなわち、紛争当事者の双方が交渉による紛争解決に対して意欲的とは限らない点です。

 ビジネスの場合、交渉の土俵に乗った以上、交渉当事者の双方が、交渉をまとめることに意欲的なはずです。でも、紛争当事者同士の交渉の場合には、基本的に話もしたくないような相手との話し合いなので、必ずしも交渉による紛争解決に意欲的とは限らないんです。

 このことを、次のマトリックスで整理して見ましょう。
 交渉当事者X、Yがいたとします。そして、交渉をまとめることに対して、積極的である場合と消極的である場合があるとします。その場合のマトリックスは以下の通り。

Y
積極的消極的
X積極的
消極的×

 さて、X、Yの双方が積極的であれば、紛争解決型交渉と言えども交渉は成立しやすいでしょう。これに対して、双方が消極的な場合には、交渉をやる気が低いので早期に決裂すると思われます。

 問題は、双方の一方が積極的であるが、他方が消極的な場合です。マトリックスの?マークの部分ですね。
 実は、紛争解決型交渉の場合、このケースがけっこう多いんです。例えば、債権回収の交渉を例に考えてみると、いくら信頼関係が破綻していたとしても、債権者は、債権を回収したいですから、交渉に積極的な場合が多い。ところが、債務者側は、債務を何らかの理由で履行しないわけですから、この交渉に必ずしも積極的とは限らないんです。

 このように交渉への温度差が違う時、債権者側が、交渉成立の可能性にこだわると、いつまでも交渉が続いてしまう場合があるんです。当事者が交渉成立をあきらめない以上、交渉成立の可能性は、わずか1%であっても残ります。交渉決裂の先延ばしです。これをやるときりがありません。

 なので、このような危険性が潜んでいる紛争解決型交渉においては、交渉に臨むにあたって、予め交渉のデットラインを決めておく必要があります。
 そして、このデットラインまでに交渉が成立しなかった場合には、潔く交渉を打ち切る。ここまで話し合ったのだから、もう少し…なんてやると、いつまでも終わりません。惜しむことなく、交渉を決裂させる、そんな確固とした方針で臨む姿勢が大事です。