不貞行為とは、民法770条1項1号に規定されている「不貞な行為」のことであり、離婚事由として法定されています。具体的には、「配偶者のある者が、自己の自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と定義されます。
夫婦が離婚をしたいと考えたとき、不貞行為をした一方配偶者は、他方配偶者に対して、離婚原因を作ったという意味で「有責配偶者」と呼ばれます。
婚姻期間中に不貞行為を行った有責配偶者は、それによって他方配偶者の貞操権を侵害したことになりますから、不貞行為を行った相手と連帯して慰謝料を支払う義務を負うことになりますし、それが原因で離婚に至れば、さらに離婚慰謝料も支払う義務を負います。
婚姻をした両者には、互いに互いの貞操を守る貞操義務が成立し、それと同時に互いに対して貞操であることを求める貞操権が成立します。これは、事実婚関係の場合にも認められると考えられます。
では、婚約の場合はどうでしょうか。
婚約は、婚姻予約であり、婚約をした両者は婚姻に向けて互いに誠実に努力する義務を負います。この、婚約した両者間における誠実努力義務の中に貞操義務まで含まれるかどうかは見解が分かれています。
民法の条文からは、不貞という、貞操義務の解釈のもととなる単語が出てくるのは、民法770条1項1号所定の通り、婚姻関係における両者間についてだけですから、事実婚の状態にあるといえる場合はともかく、いまだ事実婚状態にも婚姻関係にも至らない両者間についてまでも解釈を広げることには疑問だという結論につながりやすいでしょう。
一方、婚約をしたからには、将来的には婚姻をすることとなるのだから、婚姻関係を保つための必須条件である貞操義務は互いに課されるという見解も強いところです。
婚約期間中の不貞行為に関する裁判例としては、甲府地裁昭和55年12月23日(昭55(タ)3号)が挙げられます。
この件で裁判所は「婚姻予約(婚約)をした当事者は、互に最終的な婚姻意思形成に向って誠実に交際し、全とうな婚姻関係を成立させるために努力する義務を負っていると考えられる。まず、互に貞操を守る義務を負いその違反が離婚原因ともなる婚姻関係の成立を目指す当事者間であるから、婚姻関係における場合程強い内容のものではないにしても、両当事者の互に貞操を維持する義務いわゆる守操義務も右義務の一内容となろう」と述べ、婚姻期間中よりも性質として弱いながらも婚約期間中の貞操義務の存在を認めています。
なお、この件での認容額は、どのようなものでしょうか。
この件全体の事実関係を簡略的にまとめると、婚約中に婚約相手の弟と性交渉をしたところ、婚姻後、(出産日や血液型やカルテの記載等から)弟の子であると十分認識できたにもかかわらず夫の子であると偽って夫に出生届を出させ、事態が判明した後にも夫が妻や弟を慮って努力したにもかかわらずその全てをおろそかに扱ったというような事情がありますが、諸般の事情にてらし、慰謝料の金額は100万円と判断されています。