こんにちは。近頃、寒さの厳しい日が続いてますね。
 さて、今回は、不貞の宥恕と離婚原因という話題を取り上げたいと思います。

 民法上、離婚原因の一つとして、不貞行為(配偶者以外の異性と肉体関係を持つこと)が挙げられています(民法770条1項1号)。不貞行為を行った配偶者が、必ず主たる有責配偶者となるわけではありませんが、概して、不貞行為の有責性は他の婚姻義務違反よりも重く捉えられる傾向にあります。

 それでは、不貞行為をいったん宥恕(許すこと)した場合はどうなるのでしょうか。すなわち、不貞を許すとしたことによって、その不貞行為に及んだ一方配偶者による離婚請求は、「有責配偶者による離婚請求」ではなくなるのでしょうか。

 この問題に関しては、いったん宥恕した場合には、過去の不貞を理由に有責配偶者であると主張するのは信義則上許されないとした裁判例(東京高判平4.12.24)があります。

 事案の概要と裁判所の判断は、以下の通りです。

事案の概要

 夫と妻には3人の息子がいたが、夫が帰宅時間の遅い妻の異性関係を疑い始めたことで両者の仲は険悪化し、妻が他の男性と不貞に及んだが、その後、妻は夫に謝罪し、夫も妻の不貞を許す旨表明した。その結果、妻は自宅に戻り、それから4~5か月間は、平穏な夫婦として過ごした。

 ところが、夫は、妻と他の男性との関係がまだ続いているのではないかとの疑いを捨てきれず、妻に対し、「結婚した以上、絶対離婚はしない。夫として一生束縛してやる。死ぬまで自由にはさせない。」など責め続けた。このような夫の態度に、妻は生理的嫌悪感を抱くようになり、結局、妻は子ども3人を連れて家を出て、夫に対して離婚の訴えを提起した。

裁判所の判断

 夫婦間の婚姻関係は既に破綻していると認定した上で、

「相手方配偶者が右不貞行為を宥恕したときは、その不貞行為を理由に有責性を主張することは宥恕と矛盾し、信義則上許されないというべきであり、裁判所も有責配偶者からの請求とすることはできないものと解すべきである」

等として、今回の事案の下においては、上記破綻について妻側に専ら又は主として責任があるとはいえないから、妻による離婚の請求を認容すべきであるとした。

上記裁判例の評価

 この判例は、一旦真意に許した後は、当該不貞行為を理由として「有責配偶者からの離婚請求」とすることは信義則上許されないという構成をとりましたが、真意で許された以上、夫婦間で仲直りはできたはずであるから、その後に破綻状態に陥っても、これと不貞行為とは直接の因果関係がない、つまり、「有責」うんぬんを言うより以前に、そもそも当該不貞行為は最終的な破綻とは無関係であると考えることもできるように思います。

 なお、仮に、言葉としては不貞行為を許す旨の内容が発せられたが、心の底では許されておらず、この真意を不貞に及んだ配偶者が分かっている場合には、破綻についての有責事由が真意において解消されていないと考えられることから、なお有責配偶者からの離婚請求であると判断される可能性があると思われます。

 とはいえ、真意は人の内心にかかわる問題である以上、心の底では許していなかったということを立証するのは、そう簡単なものではないとも思います。

 「男に二言はない」という言葉にもあるように、一旦は相手方配偶者の不貞を許し、夫婦関係が平常に戻ったと言えるようになった場合には、その後にその不貞を有責事由として持ち出すことは難しくなると考えておく方が無難と言えるでしょう。