1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。

 今回も、DVについて取り上げます。中心的な法律であるDV防止法について解説しようかと思いましたが、他の弁護士が既にブログで取り上げていますので、DV防止法についてはそちらを参照していただき、まだ出てきていないテーマとして、今回は、配偶者へのDVと面接交渉(面会交流)について、裁判例を取り上げて検討いたします。

2 認容例

 DV防止法以前の裁判例ですが、夫からの面接交渉を求める審判の申立を却下した原審判を取り消し、差し戻した裁判例があります(名古屋高裁決定平成9年1月29日家裁月報49巻6号64頁)。

 事案は、夫(英国人、元大学講師)が妻(日本人、大学助教授)に対して、首を絞めたり、椅子で腕を殴ったり、妊娠中にも臀部を蹴るといった暴力を振るい、一度暴力は振るわないと約束した後も暴力を振るうといったDVが認められる事案で、夫婦は離婚調停で親権を争っていました。

 裁判所は、「両親が子の親権をめぐって争うときはその対立,反目が激しいのが通常であるから,そのことのみを理由に直ちに面接交渉が許されないとすると,子につき先に監護を開始すればよいということにもなりかねず相当ではな」い、とし、「本件においては,未成年者の両親である抗告人と被抗告人が対立,反目していることが明らかであるが,前示のとおり抗告人も被抗告人も教養を備えた教育者なのである」こと、「子が,面接を求める親に対し萎縮,畏怖,嫌悪,失望又は拒絶の感情を抱き,その精神面,情操面でマイナスになるときなどは,子と別居している親との面接は避けるべきであるが,本件の場合未成年者と抗告人(夫)とがそのような関係にあることをうかがうことができない。」と判示し、前記の結論を導きました(括弧内は筆者)。

3 却下例

 DV防止法施行後には、DV加害者である夫からの面接交渉が却下される例も多く見られるようになりました。代表的な裁判例を紹介します(東京家庭裁判所審判平成14年5月21日家裁月報54巻11号77頁)。

 事案は次のとおりです。妻は、夫のDVにより、母子支援施設に入所し、夫から身を隠して別居していましたが、その後離婚しました。夫は、妻との別居後約7ヵ月間、DVについて心理的な治療を受け、治療終了後も暴力克服ワークショップに3カ月に1回程度参加し、DV加害者を対象とする講演会にも参加していました。しかし、夫は、暴力の原因、責任は妻にもあり、妻も反省する努力をすべきだと考えていました。一方、妻は、夫の暴力によりPTSDと診断され、カウンセラーの治療を受けていました。

 裁判所は、

「当事者間の離婚の原因は,申立人(夫)の暴力にあり,申立人がいわゆるDV加害者であったことは,申立人自身そのための治療を受けるなどしていることからも明らかである。そして,申立人は,相手方(妻)に対する暴力を反省しており,治療も受けているので,面接交渉に支障はない旨主張している。しかし,現在でも申立人に加害者としての自覚は乏しく,相手方を対等な存在として認め,その立場や痛みを思いやる視点に欠け,また,事件本人(子)について,情緒的なイメージを働かせた反応を示すこともない。他方,相手方は,平成12年1月にPTSDと診断され,安定剤等の投与を受けてきたほか,心理的にも手当が必要な状況にあり,さらに,母子3人の生活を立て直し,自立するために努力しているところであって,申立人と事件本人の面接交渉の円滑な実現に向けて,申立人と対等の立場で協力し合うことはできない状況にある。現時点で申立人と事件本人の面接交渉を実現させ,あるいは間接的にも申立人との接触の機会を強いることは,相手方に大きな心理的負担を与えることになり,その結果,母子3人の生活の安定を害し,事件本人の福祉を著しく害する虞が大きいと言わざるをえない。従って,現時点で申立人と事件本人との面接交渉を認めることは相当でない」

として申立を却下しました(括弧内は筆者)。

 こうした裁判例から、暴力が継続していれば、面接交渉が認められないのは当然ですが、暴力が止んでいて、DV克服へのそれなりの努力をしていても、DV加害者に自覚、反省、相手に対する思いやりなどが乏しい場合、DV被害者の精神的ダメージが十分に回復できていないような場合などにも面接交渉が認められない場合があることが分かります。

弁護士 平久真