民事信託は「遺留分対策」の効果を有するのか
(1)遺留分について
結論から言えば、信託の場面でも、遺留分の問題は生じるものであり、信託契約設定時に配慮すべきと考えます。もっとも、民事信託と遺留分の関係を明確に判断した裁判例は、現状見当たりません。
また、巷には生命保険契約との類似性等を根拠に、信託行為を遺留分の対象外とする見解も存在しているようです。しかし、廃除や欠格事由に該当する場合は格別、被相続人の意思によってすら奪われない「強行規定」たる遺留分制度の性格に鑑みると、信託行為も遺留分の規定の適用を免れないものと解すべきでしょう。
(民事)信託では、当該信託契約の時点で、信託財産は受託者に(形式的に)移転します。さらに受託者は同契約に基づき、その管理等を行います。その利益(受益権)も、同契約に基づき受益者に帰属します。
すなわち、受益権は、信託契約に基づき、委託者から受益者に与えられるものであり、第2次以降の受益者の権利取得についても委託者から与えられるものとの理解が説得的です。
例えば、X(委託者兼1次受益者、父)、Y(2次受益者、妻)、A(子)、B(第3次受益者、子)という事例では、X死亡(1次相続)により、受益権はXからYに移転します。その後Yが死亡(2次相続)した場面でも、BはXから受益権の移転を受けるということです。
これは、Aの当該受益権にかかる遺留分の主張は、Xに対する相続の場面で行うべきとの解釈を導き出しうるものです。
後継ぎ遺贈型信託を用いて、「遺留分が消える」との表現を用いる見解で、1次相続の際の受益権の分配を元本受益者と収益受益者に分類した上で、収益受益権を分配し、遺留分に配慮しています。
(2)受益権の評価
受益権は「当該受益権者の死亡」を終期として設定されることも多く、存続期間を確定することが困難な場合が多々見られます。存続期間不確定の権利は、家裁の選任する鑑定人の評価に従う旨の規定もありますが、遺留分の多寡やその存否を判断するにあたり、特に、後継ぎ遺贈型のように、受益権者が転々とするものについて、それぞれの受益権の評価を事前にどう評価すべきかとの点も課題でしょう。
(3)まとめ
裁判例もなく、一口で語りつくすには、論点も多岐に及ぶところであるため、ここで全てを語ることは困難ですが、少なくとも、信託スキームは遺留分をも考慮した上で設定しておくべきものと思料します。
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