相続人になりうる人に遺産を渡さない手段はあるの?

 親子間や夫婦間で、「私が死んでもあいつにだけは財産を渡したくない!」という思いをお持ちの方の相談をうけることがしばしばあります。近しい家族であるからこそ、抜き差しならない対立関係に陥ることも稀ではありません。

遺言で回避する方法でも、遺留分で多少は渡る可能性がある

 そのような場合には、遺言等で特定の相続人に遺産を渡さないようにする方法を取りたいところです。しかし、法律上、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められます(民法1028条)。そのため、遺言を残す人(ここでは被相続人とします。)が遺留分を侵害する遺言を残しても、相続開始後、相続人から遺留分を請求されれば、その請求は原則として認められることになります。
ちなみに、遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみが場合は、被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。被相続人の財産が高額な場合、遺留分も相当な額となります。

遺留分も相続させたくないときは廃除という方法があります

 では、被相続人に対して生前酷いことをしてきた相続人などにも、必ず遺留分は認められてしまうのでしょうか。
 民法は、被相続人が、相続人になるであろう人(推定相続人といいます。)で遺留分を有する人に、相続人としての資格を失わせる方法として「廃除」という仕組みを用意しています。
 廃除には、被相続人が生存中に家庭裁判所に審判を申し立てる生前廃除(民法892条)と、遺言に推定相続人を廃除する旨を記載し、後に遺言執行者が家庭紙番所に廃除の審判を申し立てる遺言廃除(民法893条)があります。

 

 廃除原因(廃除できる理由)は、民法892条に規定されています。同条によれば、推定相続人が、被相続人に対する「虐待」をすること、もしくは「重大な侮辱」を加えること、または推定相続人に「その他の著しい非行」があった場合に廃除が認められます。

廃除が認められる場合とは?

1.では、どのような場合にこれら廃除原因が認められるのでしょうか。

 実をいうと、廃除原因を裁判所に認めてもらうのは簡単ではありません。そもそも、廃除というのは、相続人が本来貰えるはずの財産を、国家が強制的に貰えなくしてしまうという強い効果が生じる制度です。そのため、廃除原因があるかどうかを判断する基準も厳しいものとなっています。
 廃除が認められるかどうかの一般的基準としては、推定相続人の行為が、被相続人との家族的共同生活の継続を困難にさせるものであるか、というものが多くの裁判例で用いられています。そして、他にも廃除原因の考慮要素として、推定相続人がそのような行動をとった背景の事情や、被相続人の態度、行動も斟酌するべきであるとも考えられています。

2.これまでに廃除が認められた事例としては、以下のものがあります。

① 末期がんで自宅療養中の妻に対し、夫が、療養に極めて不適切な環境を作出した上に、人格を否定するような暴言をした。

② 長男が、窃盗等を繰り返して何度も服役し、廃除申立時においても在監中であり、他にも交通事故を繰り返したり借金を重ねたりして、父に多大な精神的苦痛と多額の経済的負担を強いた。

③ 養子が、養親が10年近く入院や手術を繰り返していることを知りながら、看病をしたり面倒を見たりしなかった。さらに、養親から養子の離縁訴訟を提起されると、養親の体調も意に介さず訴訟の取下げを執拗にせまった。

④ 実母が介護を要する高齢者であったにもかかわらず、子が、母の介護を妻に任せて出奔し、扶養料も支払わなかった。

⑤ 親の財産をギャンブルにつぎ込み、親の自宅を売却せざるを得ない状況に追い込み、親に多大な心労を負わせた。

3.他方、廃除が認められなかった事例もあります。

① 被相続人に対する暴行の事実は認められるが、相続人だけが非難されるべきではないとされた場合

② ぬるい湯が入ったヤカンを投げつけ、「早く死ね」と罵倒し、扶養義務を尽くさなかった。

 これらの事例からみると、相続人が、長期間にわたり、被相続人に対してかなり強い負担をかけた場合には、廃除が認められる傾向にあるようです。他方、単に侮辱したというような場合では、なかなか廃除は認められなさそうです。

相続人の廃除を検討する場合は弁護士に相談を

 いずれにせよ、廃除が認められるか否かの基準は一様ではなく、周辺の様々な事情も加味して判断されています。
もし、相続人の廃除を検討するような事情がある場合は、一度弁護士にご相談ください。