今回のテーマは、知的障害を持つ子どもが成人になり、親御さんがご高齢になるにつれて、親御さんがお亡くなりになった後に残される子どもが、きちんと生活していけるような環境を整えておくためにどのようにすればよいかについてお話します。

一つの家族の例を挙げてみましょう。ご両親がそれぞれ75歳、子どもが2人いて、知的障害のある兄が50歳、健常の弟が45歳、弟は結婚して家庭を持っており、兄の面倒はご両親がみています。ご両親には、プラスの財産として預貯金が4000万円、2400万円の価値のある持家があり、マイナスの財産として借金が400万円あるとします。

このような場合、まずは兄に多く財産を残すために、例えば持家と預金のうち2500万円を兄に相続させる旨の遺言書を作成することがよいでしょう。その際気をつけることは、弟にも事前に話をして了解を得ておくべきであることはもちろんですが、法的に弟にも認められている相続分を確保しておくべきです。これを遺留分といいます。遺留分は、子どものみが相続人の場合は、法定相続分の2分の1となります(民法1028条2号)。このケースでは、預貯金4000万円と持家2400万円の合計6400万円から400万円の借金を引いた6000万円が遺留分算定の基礎となる財産となりますから、6000万円の法定相続分2分の1のさらに2分の1である1500万円が遺留分となります。この遺留分は弟に相続させるようにしておけば、後に無用な紛争を避けることができるでしょう。

遺言書は、公正証書のかたちで作成することをお勧めします。というのも、公正証書遺言であれば、遺言書によって不動産の登記名義の変更や、預貯金の解約、名義書換がスムーズにできるからです。さらには、遺言執行者を指定しておけば、知的障害のある兄が特に手続きをしなくても遺言の内容を実現できます。その場合、弁護士を任意後見人に選任し、当該弁護士を遺言執行者とすれば安心です。

また、ご両親が知的障害のある兄と一緒に介護を受けられるような介護付のサービス付高齢者・障害者向住宅もありますから、そのような施設に一緒に入ることも考えられます。また、面倒をみられる方や弁護士に成年後見人となってもらい、財産管理をしてもらったり、代わりに契約をしてもらうということができます。

さらに、各市町村には社会福祉協議会があり、その中に日常生活自立支援事業という団体があります。これは、介護保険などの福祉サービスの利用手続きを行ったり、年金や医療費、社会保険料、公共料金、日用品の購入代金の支払いといった金銭管理をしてくれたり、さらには預貯金や実印、カードのような重要な証書類を預かりなどもしてもらえます。
このようなサービスを利用して、知的障害のあるお子さんがいらっしゃる方が少しでも安心して暮らせればと思います。