第1 前回までの記事の概要

 前回までの記事では、中小企業の経営者が後継者に経営権を承継させる手段のうち、売買や生前贈与等、経営者の生前に自社株を承継させる方法(「生前実現型」)についてご紹介しました。そして、その中でも有効な生前贈与をする場合に相続人からの遺留分減殺請求を封じる方法として、経営承継円滑化法上の諸制度があることをご紹介しました。

 今回は、遺言もしくは死因贈与による経営権の承継方法である「生前準備型」について解説いたします。

第2 遺言による承継について

 遺言による株式の承継を行うメリットとしては、まず、先代経営者が単独で行うことが可能であるという点が挙げられます。生前贈与の場合は、あくまで後継者との間の契約になるため、後継者との合意が必要ですが、遺言は単独行為といって、一方的な意思表示で効果を生じさせることができるため、手続上の負担が低いといえます。また、先代経営者が単独で行えることから、経営の承継が実現するまでの間、経営承継に関する秘密を保持することができ、経営者交代による信用不安が生じることを防ぐことができる点も大きなメリットです。

 また、遺言はいつでも撤回が可能とされている(民法1022条)ので、一度後継者を決めたとしても、事情の変更により他の候補者を後継者にするというように、先代経営者の最終的な意思を尊重できる点もメリットです。

 ここで、遺言の方式については、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言と大まかに3種 類あるのですが、事業承継のための遺言であれば、公正証書遺言によることが望ましいといえます。  その理由として、まず、公正証書遺言だけは、検認が不要(民法1004条2項)とされているため、早期に遺言の執行が可能であり、その結果、経営者の交代がスムーズにできる点が挙げられます。

 また、遺言は要式行為(民法960条)なので、方式に不備があると無効になってしまいます。そのため、経営者単独で作成できる自筆証書遺言よりは、費用がかかるとしても公証人が関与する公正証書遺言を行った方が、方式不備を回避できるでしょう。もちろん、公正証書によれば、他の相続人により遺言書の偽造・隠匿がなされる危険性も低くできます。

 他方、遺言によるデメリットとしては、株式の遺贈は遺留分減殺請求の対象となってしまう点と、先代経営者による撤回ができるために、経営の承継自体が不確定で紛争の要因となってしまうことが挙げられます。

第3 死因贈与による承継について

 死因贈与は、たしかに契約なのですが、遺贈に関する規定を準用している(民法554条)ため、そのメリット・デメリットは、遺言による場合とほぼ同様です。ただ、負担付死因贈与で負担が先に履行された場合には撤回が制限されるため、一定の場合には先代経営者の生前に経営の承継を確定させることも可能でしょう。 

 そして、遺言と違って要式性は問わないため、きちんとした書面がなくても承継自体は可能なのですが、金融機関等の関係者への信頼や承継の安定性を確保するためにも、できるだけ公正証書で(少なくとも実印で)契約書を作成すべきでしょう。

第4 まとめ

 以上、今回は「生前準備型」の経営権の承継方法を解説しましたが、書面を作成する必要がある等、実際には手続上難しい面もあります。
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