はじめに

1 遺留分とは

 被相続人が、相続人の一人(仮に、「Aさん」とします。)に相続財産の全部を相続させる旨の遺言書があった場合、遺産は、特段の事情のない限り、被相続人死亡時に直ちにAさんに承継されます(最高裁平成3年4月19日判決)。もっとも、兄弟姉妹を除く法定相続人(仮に、「Bさん」とします。)は、遺言によっても犯し得ない最低限度の取り分である「遺留分」を有しますので、BさんはAさんに対して、自身の遺留分に当たる部分を渡すよう、請求することができます(遺留分減殺請求)。

2 遺留分の算定

 遺留分の算定は、遺留分算定の基礎となる財産(積極財産額+贈与額-相続債務額)に、遺留分権利者の遺留分率を乗じて計算します。
 例えば、上記1で、被相続人が、プラス財産1000万円を遺し、亡くなる直前にAさんに200万円贈与しており、負債を400万円遺して亡くなった場合で、Aさんが被相続人の妻、Bさんが被相続人の一人息子であった場合、Bさんの遺留分率は1/4ですから、(1000万円+200万円-400万円)×1/4=200万円を、BさんはAさんに遺留分減殺請求できます。

3 遺留分侵害額の算定

 侵害されている遺留分の金額、すなわち、遺留分減殺請求の金額は、上記2で算定した遺留分の額から、①遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、②同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定します(最高裁平成8年11月26日判決)。
 例えば、Bさんが被相続人のために100万円の借金を肩代わりする場合には、BさんはAさんに対し、200万円+100万円=300万円の遺留分減殺請求をすることができます。

 ところで、上記1のように、Aさんに相続財産の全部を相続させる旨の遺言があった場合、Aさんは被相続人のプラス財産を全て相続すると同時に、遺された債務も全て負うことになりますが、債務の負担割合は相続人であるAさんとBさんとの間の話ですので、Bさんは、被相続人が負っていた債務の債権者から、相続分の割合に応じて債務の返済を請求されることもあります。
 例えば、上記のように、被相続人が400万円の債務を遺した場合、Bさんは被相続人の債権者から、200万円(被相続人が遺した債務の2分の1)の支払いを請求される可能性があるのです(その後にAさんに求償できますが)。

 では、Bさんは、上記のように被相続人の債権者がBさんに請求してくる可能性のある債務の金額を、遺留分侵害額に加算して、Aさんに遺留分減殺請求することができるのでしょうか。
 この点が争点となり、判断が下されたのが、最高裁平成21年3月24日判決です。
 以下、ご紹介致します。