1 遺留分減殺請求の行使期限について

 相続の際、遺言書の存在が明らかになり、遺言書の内容として自分以外の相続人に全て遺産が相続されるなど法定相続分を下回ることや遺産が誰かに過分に贈与されていたことがあります。この場合、自己の遺留分を侵害しているとして、遺留分減殺請求権を行使すれば法律上一定割合の相続財産を取り戻すことができます。しかし、この遺留分減殺請求権の行使には期間制限があるため注意する必要があります。

2 遺留分減殺請求権を行使できる期間

(1)遺留分減殺請求権の時効はいつから始まる?

 民法1042条は、「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。したがって、遺留分減殺請求権は、「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間で権利行使ができなくなります。

(2)贈与や遺贈を知っただけでは時効は始まらない

 では、「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」は具体的にどのような場合を指すのでしょう。
 この点、判例上「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」については、遺言の内容が自身の遺留分を侵害していることを認識した時とされています(大半昭和13年2月26日 民集17巻3号275頁)。したがって、単に贈与又は遺贈があったことを知っただけでは、遺留分減殺請求権を行使に関して時効はまだ始まりません。

(3)贈与の事実について争っている場合

 また、遺留分権利者が減殺の対象となっている贈与等の事実につき争っている場合にはどうでしょうか。

 この点、判例は、「遺留分権利者が訴訟上無効の主張をしさえすれば、それが根拠のない言いがかりにすぎない場合であっても時効は進行を始めないとするのは相当でないから、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合においては、無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺することのできるものであることを知っていたものと推認するのが相当」と判断しています(最高裁第二小法廷昭和57年11月12日 民集 36巻11号2193頁)。

 したがって、贈与等が無効であると争っているとしても、よほど無効であることが確実であるような事情がないと、遅くとも当該贈与等の事実を知って争った時点で「減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った」と判断されてしまう可能性があります。

3 時効を迎えないために、不審に思ったら弁護士に相談を

 このように、遺言の内容が明らかになった場合や、贈与等があったことを知った時点では、遺留分減殺請求権の行使について時効は始まりませんが、遅かれ早かれ明らかになります。いざ動こうと思ったときに、遺留分原告製請求権が時効となってしまっては元も子もありません。したがって、まず、遺言の内容や遺産となるべき財産の流れが怪しいと思った場合には、手遅れになる前にまずは弁護士に相談することをお勧めします。