1 はじめに
こんにちは、弁護士の平久です。
もう9月だというのにまだまだ残暑が厳しい今日この頃ですが、皆さんはお元気でしょうか。
先日、111歳の男性が遺体として発見されたというニュースがありましたが、これを皮切りに最近は各地で戸籍上100歳以上の方が生存していることになっていることが次々発見されていて、皆さん驚かれたかと思います。私ももちろん驚きました。
これなんかは、本来除籍されてしかるべきであろうと思われる戸籍がまだ残っていることが問題となっているのですが、今回お話するのは逆で、本来戸籍に記載されていなければならない人間が戸籍に記載されていないという問題です。通常「離婚後300日問題」と呼ばれている問題です。
2 問題の所在
具体例を挙げます。
ある夫婦が、婚姻中に仲が悪くなって、正式に離婚しないまま別居したとします。別居してしばらく経って、妻が別の男性と親しくなり、懐妊しました。その後、夫と正式に離婚します。そして、別居後親しくなった男性と再婚しました。さらに、離婚してから200日で子どもが生まれました。妻は、元夫とは何年も前から性交渉をしておらず、生まれた子どもは、別居後親しくなった男性、つまり再婚した夫との間の子どもであることに間違いありません。そこで、市役所の戸籍係に出生届を提出しに行った場合、どうなるでしょうか?
一般の方の感覚からすれば、もう前の夫とは離婚しているのであるし、再婚相手の子どもであるのは明らかであるのだから、当然子どもは再婚相手の子どもとして戸籍に入るはずであると思われるかもしれません。
しかし、この状態で届出を行えば、前の夫の子どもとして戸籍に入ることになります。本当?とびっくりされるかもしれませんが、そうなのです。
というのも、民法772条2項は、「・・・婚姻の解消若しくは取消しの日から3百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定しており、同条1項は、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」と規定していますから、結局、離婚後300日以内に生まれた子は、前婚の夫の子と推定されてしまうからです。
3 無戸籍児の出現
前の夫の子どもとして戸籍に記載されてしまうこと自体を嫌がったり、DV(ドメスティック・バイオレンス)などが存在するため、前の夫に、推定を覆す手続に対する協力を得られなかったりすることが理由となって、母親が子どもの出生届を提出せず、子どもが無戸籍となってしまうことが生じるのです。
こうした無戸籍児は、全国的にはかなりの数がいるものと見られています。さらに、現在は無戸籍2世も出現し、その出生届が受理されたことが報道されています(2008年6月12日朝日新聞)。
4 つづく
今回は、離婚に伴って無戸籍児がどうして出現するのかという点を中心に説明させていただきました。それを踏まえた上で、次回は、今回の事例のような場合に、どのような法的手続をとれば良いのかを検討したいと思います。
弁護士 平久真