1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。
 前回に引き続き、5号の離婚事由に該当する事情を検討していきたいと思います。

 今回は、夫が麻雀に耽り、勤労意欲が薄く、職を転々としていたため、家計を支えていた妻が離婚請求し、認容された事例(東京高裁判決昭和54年3月27日判例タイムズ384号155頁)を紹介いたします。

2 事案の概要

 夫は、妻と同棲開始当初無職で、その後母親の不動産を処分して得た金を資金に麻雀屋を開業したものの、1年も経たず廃業しました。夫は、定職に就こうとせず、生活の資を得る手段として、「一年間、目一杯麻雀をやらせてくれ。」と言い出す始末でした。

 その後、夫は、ほぼ毎夜、賭け麻雀に出かけて朝帰ってくるという異常な生活をしていました。もちろん、賭け麻雀によって得る収益は不規則であり、一家の生計を維持するには足りず、妻が薬剤師の仕事をして家計を支えていました。しかし、長男の出産後、妻は仕事を辞めたので、一家は経済的に困窮し、妻の兄からの借金等でやりくりする不安定な状態が続きました。

 妻が子どもを連れて夫のもとを去った後、夫は、就職しましたが、仕事に身の入らない不真面目な勤務態度が主たる原因となって長続きせず、同じ会社に1年も在籍することなく、職を転々としました。

3 裁判所の判断

 「被控訴人(妻)に収入の途があるのを頼りに遊惰な生活に流れ、その後も賭け麻雀により生活の資を得るという異常な生活態勢を一日も早く脱して定職に就こうとする態度をとらないまま推移した控訴人(夫)に対する被控訴人(妻)の絶望感はきわめて強く、被控訴人(妻)の勝気な性格と別居後二児を抱えて生活していくために苦労を続けてきた時の経過により、遅くとも前記のとおり調停が不成立に了つた昭和五二年三月頃の時点で、その決意は到底動かし難いものとなつていたものと認めざるをえない。・・・」

 「これを要するに、控訴人(夫)に対する被控訴人(妻)の愛情の喪失と不信感は決定的で、控訴人(夫)の希望にもかかわらず、その回復は到底期待し難く、両者間の婚姻は、もはや客観的に破綻に帰しているものというほかなく、したがつて、婚姻を継続し難い重大な事由があるとしてその解消を求める被控訴人(妻)の離婚請求は、これを容認せざるをえない。」(括弧内は筆者)

4 おわりに

 婚姻共同生活を維持していく上で、経済的側面が重要な位置を占めることは多くの夫婦が同意されるのではないでしょうか。

 収入・資産が十分で余裕のある家計であったり、家計が苦しくても病気で働くことができなかったり、勤労意欲があって就職活動はしているけれども就職難でなかなか就職できないなど正当な理由があって就労しないのであれば少なくとも裁判上の離婚事由にはなりにくいのではないかと思われます。

 しかし、この裁判例のように、家計が窮迫していて、特に就労できない正当な理由がないにもかかわらず、勤労意欲が欠けていて就労しないのであれば、婚姻共同生活を維持できませんし、またその意思が認められないと裁判所に判断される可能性が十分にあると言えます。

弁護士 平久真