1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。
 今回は、不動産の財産分与についてお話しいたします。
 (前回の記事はこちら:財産分与について(3)

2 一般的な流れ

 土地・建物といった不動産の財産分与については、まず不動産の時価を評価し、次に夫婦それぞれの寄与度に応じて各自の取得額を計算して、最後に分与方法を決めることになります。

3 不動産の時価の評価

 不動産の時価の評価については、不動産鑑定を実施するのが一番正確なのですが、それには高い費用が必要となります。そこで、不動産鑑定まで行うことは実際には余り多くなく、不動産業者の簡易査定を依頼するのが一般的な実務の運用です。

4 分与方法

 分与方法ですが、一方の配偶者が不動産を取得し、その代わり他方の配偶者に対して金銭を分与するといった方法が一番シンプルです。

 離婚後も現在の住居に住み続けたいという要望は多くの方にあると思います。とりわけ、離婚後もお子さんを養育する側の配偶者の方は、子どもの学区などの問題もあり、その要望は切実なものといえるでしょう。

 現在の住居に住み続けたいと考えている配偶者が、不動産を取得すれば良いのですが、他に分与の対象となる財産がなく、かといって、住居を出て行く配偶者に対して支払うべき金銭が用意できないような場合はどうすれば良いのでしょうか。

 一つの方法として、不動産の持ち分を分与して共有としてしまう方法があります。しかし、この方法を取ると、後日相手方から共有物分割の訴え(民法第256条1項)がなされたとき、住み続けることができない可能性があります。 

 そこで、このような場合、所有権を取得する側の配偶者が、離婚後も住居に住み続けることが予定されている配偶者に対して賃借権や使用借権を設定する方法が考えられます。 

5 裁判例の紹介(浦和地裁判決昭和59年11月27日判例タイムズ548号260頁)

(1)事案の概要

 夫婦には居住している土地建物以外にはめぼしい財産がなく、妻が建物の1階で音楽教室を開いており、今後の収入の基礎として必要である一方、夫は、離婚後本件建物を自ら利用する意思がないといった事案でした。

(2)裁判所の判断(括弧内は筆者加筆)

 裁判所は、「無責の原告(妻)の今後の生活のためには当分の間本件建物の利用を不可欠と認め、主文四1掲記の約定(期間は、離婚の日から子どもが満20歳になる日までであり、賃料は月6万円です。)で賃借権の設定分与をさせるものと定め、被告(夫)に右金銭(財産分与400万円)支払及び賃借権の登記手続を命ずることとする。」と判示しました。

6 おわりに

 財産分与の中でも、居住用不動産については、離婚後の生活に重要な影響を与えるものですので、その所有権の帰属や分与方法について慎重に検討する必要があります。今回ご紹介した方法以外にも、個別のケースに応じて様々なやり方があると思いますので、興味をお持ちの方は弁護士にご相談下さい。

弁護士 平久真