今回は、昔から存在していたものなのでしょうが、近時特に社会問題として取り上げられ、法整備もなされたドメスティック・バイオレンス(DV)について、お話ししてみようと思います。

 DVとは、親密な関係にある男女間において、男性が女性に対して振るう暴力をいいます。ここで親密な関係とは、婚姻関係のみならず、内縁、離婚後、恋人といったものを含み、暴力とは、身体的のみならず、心理的、性的暴力も含みます。配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)の規定上は、「配偶者からの暴力」とあるので、理屈の上では、女性からの暴力も含まれますが、男女の生理的機能、体格、筋力等の相違から、問題となっているのはほぼ男性からの暴力と考えてよいでしょう。

 DVが生ずるのは、上述したような男女の肉体的格差も去ることながら、古くから男性が女性に優位する社会慣行(聖書にすら「女は男に仕えるもの」といった表現があります。)、男らしさの指標として攻撃性等を評価する気風等が原因となっているといわれています。

 女性がDVを受けたときの対処方法は、まず、警察に通報、相談することです。警察官は、DVの通報等を受けた場合、暴力が行われていると認めれば、暴力の制止、被害者の保護その他被害の発生を防止するために必要な措置をとるよう努めなければならないとされています(DV防止法8条)。

 また、都道府県が設置する婦人相談所等は、配偶者暴力相談支援センターとして、DVに関する相談に応ずるのみならず、緊急時の一時保護や被害者の心身の健康回復のための医学的・心理学的指導を行うことになっています(同法3条)。他にも、市町村の福祉事務所も、DV被害者の自立を支援するために必要な措置をとることが求められています(同法8条の3)。

 したがって、これらの施設に駆け込んで、相談してみてもよいでしょう。これら警察、婦人相談所、福祉事務所等の関係機関は、被害者に対して適切な保護が行われるよう、相互に連携することが求められているので、必要があれば他の機関と連絡をとり、適切な対処をしてくれることが期待できます(同法9条)。

 DV直後に身一つで逃げ出してきたものの、行くところがなく、相手方が追ってくる可能性もあるなど、一時的に、緊急避難場所(シェルター)が欲しいといった場合も多いでしょう。そんなとき、上述した機関のどこに連絡しても、連携をとって、福祉事務所等の公共シェルターや場合によってはNGO運営の民間シェルターを案内してくれるはずです。

 次に、上記機関だけでは解決できない場合、加害者の住所地を管轄する地方裁判所に対し、保護命令を出すよう申し立てることができます(同法10条、11条)。

 まず、被害者の居住地、勤務場所付近を徘徊し、つきまとうことを禁ずる接近禁止命令制度があります(同法10条1項1号)。命令の効力は6か月間持続し、それで足りない場合、再度の申立も可能です。

 次に、加害者を被害者の住居から追い出し、その住居付近の徘徊を禁ずる退去命令制度もあります(同法10条1項2号)。この命令の効力は、2か月間です。

 また、面会要求や電話、電子メール、ファクシミリ等をする行為を禁ずる命令も出すことができます(同法10条2項)。命令の効力は、6か月間です。

 さらに、被害者と同居している未成年の子がいる場合で、加害者がその子を連れ戻すと疑うに足りる言動をしているときなどは、子の住居のみならず、就学する学校その他通常その子が所在する場所を徘徊したり、つきまとうことを禁ずる、子への接近禁止命令制度もあります(同法10条3項)。ただし、その子が15歳以上であるときは、子の同意がなければ命令を発せられません。この命令の効力は、6か月間です。