前回は、内縁に関し、主立った事項を広く触れていきましたが、今回は、若干細かな話しを含めて、内縁について補足させていただきます。

 近時の「内縁」に対する見方は、実体が婚姻そのものであるため、婚姻に準じて扱われる準婚理論があるということを、前回、説明しました。

 この考えからすると、内縁をやめたいという場合、だいぶ前に説明した「離婚」の話しがそのまま妥当するのかなという気がしてきます。ただ、婚姻は届出が必要であり、離婚も届出や裁判所でそのように認めてもらう必要があります。離婚したいからといって、勝手に自分だけで離婚届を書いて出しても、離婚が認められるわけではありません。

 これに対し、内縁は、前回、挙げた要件である1)男女が二人で共同生活を営もうという意思と、2)その事実があれば成立し、届出も何もいりません。ですから、内縁の解消だって、解消しようと思えば、自分で上記1)か2)をなくしてしまえばよいわけです。この点は、離婚原因を規定した民法770条1項1号ないし5号がない限り、離婚を認めてもらえない離婚とは大きく異なります。

 しかし、だからといって、内縁なら好き勝手に解消し放題というわけではありません。内縁解消の届出等はいらないまでも、離婚原因たる民法770条1項1号ないし5号がないのに、内縁を解消したとなると、内縁の不当破棄としてその責任を追及される可能性があります。内縁の不当破棄を以前は、債務不履行責任と構成する判例もありましたが(大判大正4年1月26日)、これは内縁を婚姻の予約と考える立場からのものです(婚約予約理論)。準婚理論の立場からすれば、内縁の不当破棄は、むしろ不法行為責任と捉える方がしっくりくるでしょう。ここで、離婚の際の慰謝料の話しを思い出していただきたいのですが、離婚慰謝料は、離婚原因を作った者が相手方に対して支払うものでした。

 つまり、離婚原因が明確に一方にあるような場合、例えば暴力や不貞行為があるような場合にしか発生しません。どっちもどっちだが、間違いなく二人の関係は冷め切っているという場合、離婚は認められても慰謝料は発生しません。

 離婚の場合、離婚原因がなければ離婚できず、離婚原因があって離婚はできても、一方のみが離婚原因を作ったときにしか慰謝料は発生しない、そういうことになります。

 他方、内縁の場合、離婚原因に相当する事由がなくとも、事実上解消することができ、しかし反面、離婚原因に相当する事由がないのに内縁を解消すると、不法行為となるので、損害があれば、例外なく賠償責任が発生するということのようです。ちなみに、婚姻によらない男女関係調整事件で、認められた損害賠償額は、統計上、同棲期間1年未満なら約150万円、同棲期間1年~10年なら約250万円、同10年~20年なら約350万円、同20年以上なら約550万円となっています。そして、これらは、男性が女性に対して支払う比率が8割だそうです。

 次に、内縁に対し、法はどのような態度をとっているかについてですが、相続財産が残っていた場合に、裁判所は特別縁故者として内縁者などに財産を与えうるとしたり(民法958条の3)、建物賃借人に相続人がいない場合に、内縁者等に賃借権を相続させるとする(借地借家法36条)など、保護規定が置かれています。

 他方、子の親が婚姻夫婦の場合の方を、内縁であった場合より倍の相続分を与えている規定もあります(民法900条4号ただし書)。この規定は、婚姻を推奨する目的で子の相続分に差を付けたわけですが、子の平等権(憲法14条1項)を侵害し、違憲ではないかと問題になっています。