皆様、こんにちは。
1 イントロ
協議離婚の場合、夫婦が離婚することに同意して、役所に離婚届を提出すると効力が生じると言われています。
離婚する意思の捉え方については先日、当法人の弁護士のブログ記事でもご紹介がありましたように、形式的にとらえられており、たとえ方便のための離婚であっても夫婦が離婚届を提出することについて合意がある場合には有効な離婚と扱われています。
それでは、一旦離婚する方針となって離婚届にサインしたものの、9カ月後に夫婦の一方から提出された場合、その届け出は有効に扱われるのでしょうか。今回も裁判例をご紹介しながらご説明します。
2 事案の概要
X(原告・夫)とY(被告・妻)が平成19年1月5日付でお互いに署名捺印をした離婚届を作成しました。
ところが、その離婚届は直ちに役所には提出されず、平成19年10月1日に離婚届を預かっていたYによって届出がなされました。
Xは、離婚届のうちのXの署名捺印は、Yが偽造したものであると主張して、離婚無効確認訴訟を提起しました。
これに対してYはX自身が離婚届に署名捺印をしていること、XからYに対して提出を委ねられていたものであったが、YはXが定職に就いてくれるならば離婚を思いとどまろうという気持ちがあって様子を見ていたところ、Xの状況に変化がなかったことから10月1日に届出をしたものであると反論しました。
3 裁判所の判断
(1) 第一審
第1審を担当した千葉家庭裁判所は、Xの主張を認めて離婚は無効であると判断しました。
離婚届の署名捺印はXの意思によるものではないと評価しました。未成年者の親権者の指定や財産分与協議された形跡がなかったことから、夫婦喧嘩の成り行き上の署名捺印とも考えられること、Xの署名捺印があったとしても、離婚の意思や届出の意思を有していたかは定かでないと評価しました。また、YがXが定職に就いたら離婚しないで同居を続けると考えていた点ついても離婚を前提に行動していないと評価されました。
(2) 控訴審
控訴審を担当した東京高等裁判所は、原判決を取り消して、離婚無効ということはできないと判断しました(同裁判所平成21年7月16日判決・判例タイムス1329号213頁)。
控訴審ではXの署名はXの自署によるものであり、XからYに離婚届の提出を委ねたと認定しました。また、Yが離婚届を提出するまでの間にXが離婚届の提出を止めるように申し出た事実は認められないと認定しました。
離婚届の提出が9カ月遅れてしまった点については、長男の結婚や三男の高校卒業など家族の状況の変化や、9月に自宅を売却して借金の清算をした後に別居を開始した事実を認定して、Xが定職に就いて同居を続けるというYの期待に反する方向へ変化していたと評価し、最終的にはXの離婚意思や届出の意思に変動は認められないとしました。
4 まとめ
上記の裁判例ではXの署名捺印の真偽というよりは、署名捺印した当時の離婚意思が存続しているか否かがポイントであったと思われます。
離婚届に自ら署名捺印した以上、Xには届出をする明確な意思があったと推認されることになるのでしょう。ましてや離婚届の提出を一方配偶者に任せたという認定がなされているのに、届出後に「やっぱりなかったことにして欲しい」というのは難しいことだと思われます。
本件ではYが離婚届の提出ができなかった、ためらわれた事情が少なからずあって、YはXから離婚を申し入れられて逡巡した末に離婚意思と届出の意思を固めたと捉えられたのではないでしょうか。署名捺印から提出までの空白期間を埋める事情がなければ、第一審のような判断もありえるかもしれません。
このような事例から理解しておくべきことは、契約書の類も同様ですが、署名捺印することの意味を軽視しないことです。ご自身に離婚を思いなおす可能性があるならば、サインする前に当事者間の協議を重ねたり、調停等の手続に乗せていく方がよいということが、より現実味を持って感じられるのではないかと思います。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。