今回は、相手方から5年前に作られた離婚届を出された判例についてお話します。

<ケース>
 夫は妻と離婚したいと思い、調停や話し合いを続けてきました。そして5年前のある日、別居に際して夫は離婚届の一部を記入した離婚届2通を示し、妻にそれぞれ判子を押させました。しかし、妻が定職についていないことなどから5年間の猶予を与え、5年後には確実に提出すると告げ、妻も承諾しました。

 そして5年が経過し、夫は妻に何も言わず妻の署名欄に名前を書き入れ、離婚届を提出し受理されてしまいました。

 さて、このような離婚届は有効でしょうか?

 判決では夫が勝利し、夫が妻の署名を代筆したことも、5年前に作成された離婚届でも有効とされました。

 離婚届の有効要件として、届出時に離婚意思があることが必要となります。とすれば、5年前に離婚の意思があっても、届出時にはわかりませんから、無効となりそうです。しかし、この事案では、夫が5年の間に再三にわたり妻に対して予定通り提出すると伝えており、その際、妻は何らの異論を唱えておらず、離婚届が提出された後も夫を訪ね、離婚届を提出した理由を聞き、そのまま帰っていってしまいました。

 判例は、いったん当事者間に離婚の合意が成立した場合は、一方が離婚の意思を失ったとしても明白な翻意の表示がなければ離婚意思の撤回があったとはいえないと述べています。

 本件では妻が5年前には承諾したけれど今は離婚したくない!と思っているなら、夫に対して明確に異議を唱えたり、離婚届の不受理申出をしたり、離婚届が提出されたことを知ってすぐに何らかの行動にでることが必要でした。

 相手方から不本意な申出をされたときは、きちんと自分の意思を残る形で示しておくことが大切なのですね。

なお、勝手に離婚届を偽造した場合、刑法上の私文書偽造・同行使罪(刑法159条1項、161条1項)、届出をして受理された場合は公正証書原本不実記載罪(157条1項)になりえますので、ご注意ください。

参考: 東京地方裁判所判決 平成15年(タ)第412号、平成16年(タ)第71号、平成16年(タ)第177号