皆様、こんにちは。

1.イントロ

 昨今はサービス残業等をめぐる時間外労働についての議論が活発になって、企業もその従業員の方も残業には謙抑的になる動きも出てきたかと思います。
 他方で、実はまだという企業や業界もあるかもしれませんが、時間外労働についての制約を設けたとしても運用の問題も生じえます。
 今回は黙示の時間勤務命令が認定された事案をご紹介しつつ、若干の注意点をご説明します。

2.事案の概要

 Xは9年程勤めていたY社からとある省庁関連の事務所への出向を命じられました。その際、XはY社と契約期間の1年間の契約社員として労働契約を締結して勤務することになりました。
 Xは2回の契約更新を経てY社を退職することとなりましたが、それまでの具体的な勤務時間については勤務時間整理簿に記載して、Y社の上司に提出していました。ところが、時間外労働については清算されなかったため、XがY社に対して未払いの時間が勤務手当を求めて訴訟を提起しました。

3.裁判所の判断(大阪地方裁判所平成17年10月6日判決・労働判例907号5頁)

 Y社からは、現場手当との名称で時間外手当として月額2万5000円を支給していること、これを超える残業については個々の判裁量で行われている等の反論が出ました。  本件を担当した大阪地裁は、Y社の就業規則にある、特定の業務以外については裁量労働、みなし労働時間制を適用するとの条項について、

「原告の業務内容が労働基準法上のいわゆる裁量労働に当たるのか否かは明らかではないし、被告も労働基準法上の裁量労働に該当するとの主張をするものでもない。」

 として、Y社の主張を退けました。また、Xは勤務時間整理簿をY社に提出して、上司にその内容を確認してもらっていたことから、上司は時間外勤務の存在を知っていてそれを止めなかった状況にあったとして、少なくとも黙示の時間外勤務命令は存在したとの判断が示されました。
 また、2万5000円の時間外手当については、Y社の総務部長が50時間相当の残業手当として支給しているとの記載がある陳述書が証拠として提出されており、仮に上記手当を時給に換算すれば500円程度となり現実の残業手当として見合う金額ではないとの指摘がされていました。

4.まとめ

 上記の裁判例では、一応、時間外労働について規則や内部的な運用が存在していましたが、Y社としてはそれが中途半端になってしまったことが徒となって、未払いとなっている時間外労働手当の支払請求が認容されたように思います。
 Xについては残業が手当の支給に見合うものか否かという問題点がありますが、本件で問題とされていないところをみると、勤務時間整理簿におおよその残業の内容が記載されていたり、きちんと上司に報告していたりしていたのではないかと思われます。そうなると、一定額の手当の支給と現場の裁量に任せているというY社の対応は、やや責任感を欠くようにみえてしまうかもしれません。
 会社にとってみれば水増し狙いの申告の可能性もあるので、難しさをはらんでいるところですが、事前事後の申告や報告体制を確立して、時間外業務の内容をきちんと把握するといった地道な方法が無難かと思われます。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。