別居中でも、結婚していて扶養義務がある限り、出て行った奥さんと子供達の生活費は払ってあげなければいけない、という婚姻費用の分担義務については当ブログでもおなじみのテーマですが、今回は、奥さんが不貞をして出て行った場合まで生活費を払う必要があるのか、子供を連れて出て行った場合にはどのように考えればいいのか、いう問題に関する事例を紹介します。

 この事例では、妻Xと夫Yは、結婚13年目に、Xが浮気をして家を出て行き、二人の間の未成年の子Zは母親であるXと一緒に暮らしており、Xの年収は247万2000円、Yの年収は351万4400円でした。XはYに対して、婚姻費用の分担として毎月10万円を請求しましたが、Yは、Xは不貞をして勝手に出て行って、不貞相手と同居しているのだから婚姻費用は支払わないと主張しました。

 これについて、裁判所は、別居中の妻が夫に対して婚姻費用の分担を申し立てた場合において、妻と同居している未成年者の子に対する実質的な監護費用に相当する部分を除いた妻自身の生活費に相当する部分の申し立ては権利の濫用として許されないと判示し、Yが負担すべきZの実質的監護費用は月額2万5000円であるとしました(東京家審平成20年7月31日)。

 確かに、旦那さんからすれば、他の男と不貞して出て行った妻から生活費が足りないと言って泣きつかれても、自業自得だ!と言ってやりたい気持ちになるでしょう。

 このように有責配偶者からの婚姻費用分担請求について権利の濫用が認められた事例は多数見られます。(ただし、反対に、別居の原因が夫婦のいずれの側にあるかは婚姻費用分担義務の存否及び数額に影響を及ぼさないとした裁判例もあります(大阪高判昭和41年5月9日)。

 なお、この裁判例でも、婚姻費用の請求者が理由なく同居を拒む等の行為によって権利を喪失又は放棄したと認められる場合等は別としています。)

 上記の裁判例では、不貞で出て行った奥さんからの婚姻費用分担請求が権利の濫用として認められないということから一歩進んで、たとえその場合でも、婚費の請求が権利の濫用と言えるのは奥さんとの関係だけであって、何の罪もない子供の分の生活費まで払わないというのはやりすぎだ、という判断を示したものであり、私としては大変共感できる内容だと思います。

弁護士 堀真知子