今回は、前回のブログのテーマであった、財産分与の申立てをしていない当事者に対して財産分与を認めることはできるか、という点について、ひとつ裁判例をご紹介します(東京高判平成7年4月27日)。
事案の概要は以下の通りです。
(前回の記事はこちら:財産分与を申立てていない者に対して財産分与を認めることはできるか)
この夫婦は、被告(夫)が原告(妻)に十分な説明をしないで会社を辞めたこと等から不和となり、原告は、子供を連れて、ゴルフ会員権証書や債券類等合計3610万円相当を持ち出して別居しました。
原告は、その後、離婚調停を申立てたのですが被告がこれに応じなかったため成立の見込みがないとして取下げし、約3年後に離婚訴訟を提起し、その中で、共有財産の2分の1の財産分与を求めました。これに対して、被告は、本件は有責配偶者からの離婚請求であると主張して、請求棄却を求めるだけで、反訴等の請求はしませんでした。
原審では、離婚と併せて、被告から原告に対する財産分与として総額の約2分の1にあたる約5288万円を認容しましたが、被告はこれに対して、本件は有責配偶者からの離婚請求であるから、離婚は認められない等主張して控訴しました。
そして、控訴審では、実質的共有財産を7020万円とし、その3割6分にあたる2510万円を原告に、残りを被告に分与した上で、原告から被告に対して、原告が持ち出した共有財産3610万円との差額の1100万円の分与を宣言し、その支払いを命じました。
妻の立場としては、財産分与を受けるつもりで財産分与を申立てたのに、実際には手元にある財産が減るという結果になってしまい、思わぬ損をしてしまったことになりますが、離婚裁判において最適な最終解決を図るためには、裁判所が後見的な立場から、このような判断をすることも許されると言う考え方に立った裁判例といえます。
なお、財産分与の義務者からの財産分与の申立てについては、肯定説と否定説がありますが、この判決の立場からすると、財産分与の義務者からの財産分与の申し立ても問題がないということになるでしょう。
弁護士 堀真知子