以前、当ブログでも、財産分与義務者から財産分与の申立てができるかというテーマについて他の弁護士が書いていましたが、今回はさらに一歩進んで、財産分与の申立てをしていない当事者に対して財産分与を認めることはできるか、ということについて書きたいと思います。

 例えば、損害賠償請求等の普通の金銭請求の裁判の場合、原告が被告に対して「100万円支払え」と請求し、被告が請求棄却を求めただけであるときには、仮に、裁判の中で、裁判所が「これは被告が原告に対して支払いをするのではなくて、逆に原告が被告に対して支払いをするべきケースなのでは?」と思ったとしても、被告が反訴を起こして自分に支払えと請求しない限り、単に請求棄却の判決を出すだけです。

 原告としても、100万円支払えって欲しくて裁判を起こしたのに、一銭ももらえないだけでなく、支払わなければならないなんて、予想外の事態でしょうし、逆に被告からすれば、自分では請求していないのに、お金がもらえるとは、棚からぼたもち状態です。このように、裁判では、当事者の申立てたものの範囲内でしか裁判所は判断してくれないというのが、民事訴訟の原則です。

 ただし、財産分与は単なる金銭請求とは違い、離婚という婚姻の解消に伴う財産の清算という側面を持ちますので、裁判所が法令に照らし当事者間の権利・義務関係について判断する事件(これを「訴訟事件」といいます)ではなく、裁判所が自らの裁量に基づき、権利・義務関係を具体的に形成する事件(これを「非訟事件」といいます)であるといえます。

 そして、財産分与について、この「非訟性」という点を重視すれば、裁判所は当事者の申立に拘束されることなく、その事案において一番いい解決方法を取れるということになります。

 そうすると、裁判の中で、財産分与を申し立てた当事者の方が財産分与の割合を超えた実質的共有財産を持っており、相手方に分与すべきことが明らかになれば、裁判所が、財産分与を申し立てていない者に対して財産分与を認める判断をしたとしても特に問題ないということになるでしょう。

 次回は、この点についての裁判例をご紹介したいと思います。

弁護士 堀真知子