離婚をする前に配偶者が交通事故にあい、損害保険金が支払われたとしたら、その保険金は財産分与の対象になるのでしょうか。
交通事故にあってしまい、後遺障害が残った場合、数千万という保険金が支払われることもあるため、保険金が支払われた後に離婚する場合には、これを財産分与の対象にするかは大きな問題になると思います。
この問題について判断した裁判例として、大阪高裁平成17年6月9日決定があります。
簡単に事案を説明すると、夫が離婚前に交通事故にあい、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益の損害保険金として5200万円が保険会社から夫に支払われました。その後、妻と離婚することになり、その保険金の財産分与が問題となりました。
保険金も支払われてしまえば金銭ですから、そのすべてが財産分与の対象になるように思うかもしれません。しかし、上記の裁判例は、そのように判断しませんでした。
傷害慰謝料、後遺障害慰謝料に当たる損害保険金は財産分与の対象にならず、逸失利益に当たる損害保険金は症状固定日から離婚が成立した日の前日までに相当する金額を財産分与の対象にするという判断を上記裁判例はしました。
この判断は、支払われた損害保険金の性質に着目した妥当な判断だと思います。
傷害慰謝料とは、交通事故にあった後に入通院を強いられた精神的苦痛を慰謝するための保険金です。また、後遺障害慰謝料とは、後遺障害を負ったことによる精神的苦痛を慰謝するための保険金です。これらの保険金は、事故の被害者の精神的苦痛を慰謝するために支払われるものですから、配偶者の寄与はありませんので、財産分与の対象にならないのは当然だと思います。
それに対して、逸失利益とは、後遺障害を負ったことにより将来得られたはずの収入が得られなくなってしまった分を補てんする保険金です。これは、症状固定といって交通事故によって負った傷害が治療してももう治らない状態になった後の収入喪失分について支払われるものですので、通常の収入と同じ性質を有するわけです。つまり、配偶者の寄与が認められることになります。
交通事故の損害保険金に配偶者の寄与が認められ財産分与の対象になるのはおかしいように思うかもしれませんが、もし交通事故にあわなければ、普通に働いて得た収入には配偶者の寄与が認められ、その収入は当然財産分与の対象になるのですから決しておかしいことではないと思います。
弁護士 竹若暢彦