今回は、たとえば、夫が海外転勤したことにより、同居をあまりしていなかった時期がある場合においても、妻からの財産分与請求が認められるのかについて、検討したいと思います。

財産分与とは?

 財産分与とは、簡単にいえば、婚姻期間中に夫婦で作り上げた財産を離婚時には半分にきちんと分けて清算しましょうという趣旨のものであります。海外転勤しており、同居期間が短かったりする場合、夫の仕事による収入で作り上げた貯金が、夫婦で作り上げた財産と言えるかどうかが問題となります。

 通常、専業主婦であっても、夫が仕事に安心して出かけることができ、仕事に打ち込んで貯金を作ることができたのは、妻の家庭での支えがあったからであるなどとして、半分の分与を受けることができます。

 海外転勤している場合、妻の支えがあったと言えないとして、夫の側から、財産を分与しないと主張されることもあるようです。

判例として東京地方裁判所の判決があります。

 この点につき、平成16年6月23日に判決が言い渡された東京地方裁判所の判決があります(東京地裁平成16年6月23日・同庁平成14年(タ)第366号)。なお、この事案は、夫が海外転勤になった時に妻は海外までついて行きましたが、夫が日本へ転勤で帰国するときに、妻がついて帰らず、海外に残ったという事案ですので、若干事案が異なります。

 この事案では、夫は、妻に帰国して同居するように求めたが、妻がこれを聞き入れなかった。非常につらい日常生活を余儀なくされた。単身生活は多忙で大変であった。だから、財産分与をしないと主張しました。

 妻は、数カ国にわたる海外で勤務し、そこへ同行して家庭を守り、子どもを育て、会社の用もこなして夫を支えてきたのであり、共同作業そのものであった、財産分与は認められるなどと主張していました。

財産分与すべきであると判断

 これに対し、裁判所は、財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配し、離婚後における一方の当事者の生計の維持を図ることを目的とし、さらに、当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであり、有責行為により離婚に至らしめたことについての損害賠償のための給付も含むものであるとしました。ただし、本件では、どちらか一方だけが悪いとは言い切れないから、有責行為による損害賠償としての給付は考慮しませんでした。そして、妻が海外から帰ってこなかったことついては、妻は専業主婦であったとしても、長期間にわたり、主婦として家庭を支えてきたとして、2分の1を財産分与すべきであると判断しました。

 この事案は、長期間にわたり海外における同居期間があった事案でありますので、全く合理的な理由がなく、同居期間もほとんどないような場合には、財産分与の際に、配分が考慮される可能性はあると思いますが、通常、主婦として家庭を支えていたと判断されるでしょうから、財産分与が半分にならないのは、余程の事案に限られると考えられます。

 このことは、夫が国内で単身赴任している時にも同様のことが言えると思います。

 では、具体的には、どのくらいの貢献度があればいいのか、ということになると思いますが、それは具体的な事案ごとに判断しなければならないので、申し訳ありませんが、弁護士にご相談ください。

弁護士 松木隆佳