先週のブログで、同性間の浮気の立証は困難だと書きました。今日はそれを裏付ける判例(地裁レベルですが)をご紹介したいと思います。
(先週のブログはこちら:夫が男性と浮気しました➀)
何度か甘い時を重ねて愛しく、一番暖かな僕の唯一くつろげるお家でいてくれる君に言葉にできない位のありがとうを贈ります。ずっと温かく僕だけを見つめてくれてありがとう。最近とても君が好きです。君は年下なのに甘えたいよ。いつもいつも大切にしてくれてありがとう。
あの頃、僕は明日にでも連れ出したいくらい君を想っていて、早く大きくなってほしいと思ったものでしたね。君は、本当の愛のためなら、世間体も欲も捨てられる意志の強い人だとよくわかりました。今は、そういう信頼のもとに、君を見守っています。君は、僕のことをあきらめてとかいいますが、僕は、あの頃と少しも変わらず君を見ています。夏のまぶしい光の中でグリーンの芝をサンダルで軽やかに・・・白い門をその細い指で開け、可愛く、とても嬉しそうに僕の方へ寄ってくる君をとても愛しく思ったように、今も僕の中では変わらず可愛い年下の彼女なんだ。
びっくりさせて申し訳ありません(笑)。このような手紙が婚姻外の男女で交わされたとなると、それは不貞行為を立証するまでには至らないまでも「婚姻を継続し難い重大な事由」の立証として十分なように思えます。
しかし、この手紙、実は中年女性D(既婚者)が別の中年女性(本件離婚訴訟判例の原告。被告である夫に有責性を争われている)に出したものなのです。他にも、被告は証拠としてホテル(ラブホテルではなく普通のホテルです)の客室内での着衣のツーショット写真、原告母から被告に宛てた「ここらで心からお互い歩み寄り、S(Dのことを指すと考えられる。)からの手を離れ、子供達の為にも平和な家庭が戻ってくるよう、毎日、心をいため祈っています。」との手紙が証拠として提出されているようです。
しかし、神戸地方裁判所(平成13年11月5日判決)は以下のように述べ、原告の有責性を否定しています。
上記事実によれば、原告とDはお互いに精神的に結ばれていたことは推認できる。しかし、両名が肉体関係を伴う同性愛関係にあったことを認めるに足りる証拠はないし、上記事実からこれを推認することも困難である。
Dには夫と子がおり、同人が同性愛者であることを認めるに足りる証拠はない上・・・(中略)・・・中年の女性同士が互いに相手を慈しみ合っていたからといって、直ちに肉体関係まであったと推認することは相当でない。
たしかに、この手紙や客室内の写真などから肉体関係を立証するのは困難でしょう。しかし、この手紙の内容からして、一般的な「中年の女性同士が互いに相手を慈しみ合っていた」などというレベルの関係ではないように思うのですが、みなさんいかがですか。差出人Dさん、女性なのに一人称が「僕」なんですけどね。それで、「可愛い年下の彼女」ですからね。肉体関係が仮にないとしても、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたると考えていいように思います。
まあ、被告が相当酷かった(一言でいえばDV夫です)ので、その辺りも考慮されているかもしれません。そのようなこともあって、原告の請求(離婚・慰謝料・親権・養育費・財産分与)を認容するという結論は妥当かと思うのですが、慰謝料の認容額が800万円(原告の請求額は1000万円)というのはどうなのでしょう。お互いに離婚事由があった、ただし夫の有責性が大きい、だから多少認容額も低く・・・というのでいいんじゃないでしょうか?
ちなみに、本件被告はDさんに対して損害賠償請求訴訟を提起していますが、神戸地裁で請求棄却になり、控訴審の大阪高裁でも控訴棄却判決が出、本件判決時には最高裁に上告していたようです(もっとも、被告は訴訟前にDとDの夫の共有名義の自宅マンション仮差押えを申し立てており、こちらは仮差押えの決定が出ていたそうです)。ひょっとしたら、本件判決は先行して行われていたDさんに対する訴訟の一審・控訴審に倣ったのかもしれません。しかし、そうだとしても、やはり腑に落ちない判決ではあります。
古い裁判例の中には、夫が他の男性と肉体関係を持っていたにもかかわらず、それ自体は離婚事由としなかったものがあります(神戸地方裁判所姫路支部昭和34年11月30日判決)が、これはまた別の機会に取り上げましょう。
ともあれ、自白を得るか現場を押さえるかしない限り、配偶者の同性との浮気は離婚事由として主張しづらいようです。