皆様、こんにちは。

1 イントロ

 他方配偶者が不貞行為に及んだ場合にその配偶者及び不貞相手に対して慰謝料請求を行うことができることは当法人の従前のブログにて説明されてきました。

 今回は慰謝料の認容額を見比べつつ、配偶者と不貞相手との違いをみていきたいと思います。

2 事案の紹介

(1) 事案はほぼ共通していますが、夫もしくは妻が他方配偶者及び不貞相手に対して慰謝料請求訴訟を提起したというものです。ただ、裁判所が認容額を決めるにあたっては様々な事情が考慮されています。

(2) 一つ目は妻と不貞相手の男性に対する慰謝料請求事件です。裁判所は妻と不貞相手の男性が連帯して200万円の支払義務を負うという判断が下されました。裁判所は特にどちらの責任が重いのか、といった点には言及することなく当事者の年齢、職業、夫婦の婚姻期間等を考慮して金額の判断をしました(東京高裁昭和51年10月19日判決)。

(3) 二つ目は不貞相手の女性のみに対する慰謝料請求事件です。

 裁判所は判断枠組を示すにあたって、「婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって、不貞の相手方において自己の優越的地位や不貞配偶者の弱点を利用するなど悪質な手段を用いて不貞配偶者の意思決定を拘束したような特別事情が存在する場合を除き、不貞の相手方の責任は副次的というべきである。(太字は筆者による)」という考え方を示しました(東京地裁平成4年12月10日判決)。

 裁判所は上記の考え方に基づき、夫は不貞相手と上役の関係にあって主導的役割を果たしていたこと、夫婦関係の破綻は主に夫の性格や行動に由来する部分があること、原告である妻は主たる責任を問われるべき夫に対してはある程度宥恕し、夫から平穏な夫婦関係に戻ったという証言があったこと、訴訟提起された後に夫と不貞相手は不倫関係を解消することになり、不貞相手が自ら実家に帰省したこと等から、不貞相手に対して認められるべき慰謝料額は50万円にすべきと判断しました(裁判所は理論上夫も妻に対する慰謝料の支払義務を負っているところ、上記の慰謝料額のうち、半分の限度で負担割合(≒支払いを行う責任)を負っている点も明らかにしました。)。

(4) 夫と不貞相手の女性に慰謝料請求訴訟を提起した事件です。

 裁判所は夫に対して300万円の慰謝料支払義務を認めました。

 上記300万円のうち、結婚当初から何人もの女性と関係を持ったという夫の女癖の悪さや夫が妻に対して度々暴行を振るったという不貞とは無関係の事情も妻の精神的苦痛の一因であったことから、夫と不貞相相手による共同不法行為は80万円分を担っていると判断しました。

 さらに、裁判所は加害者の行為あるいは結果に対する関与の度合いで判断すべきとの判断に基づいて、不貞相手の女性は自分の夫との婚姻関係を修復させたことや本件の中で心神がかなり傷ついていたことから10万円の限度で慰謝料の支払義務を認めました(札幌地裁昭和51年12月27日判決)。

3 まとめ

 夫婦間の慰謝料については、根拠となる精神的苦痛の原因が不貞に止まらないことが多々ありますので、認められる慰謝料の額が不貞相手と異なることはわかりやすいと思います。

 ただ、裁判所は不貞相手に対してはさらに何らかの理由(夫or妻の責任の方が重い等)を付けて責任を軽減させようとする傾向がなきにしもあらずです。理論面はわかりづらい部分があるので割愛しましたが、今回紹介した裁判例を見る限りでも、不貞関係が破局して不貞相手自身が身辺整理を行っているという事情があるとかなり減額されている模様です。

 不貞をされてしまった方としては、不貞相手にも償って欲しいという思いが強いです。もっとも、事情によっては高額の慰謝料が認められず溜飲を下げるには至らないこともあるので、経済的合理性を踏まえてよく考えていただければと思います。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。