前回は、離婚の際に問題になるものとして財産分与について触れました。ただ、財産分与に関する概略的事項の説明に止まりましたので、今回は、もう少し細かな事項についても説明してみたいと思います。

 まず、よく退職金の分与について争いになることがあるので、最低限知っておくべきことを述べます。

 既払退職金、つまり既に退職金が支払われていれば、話は簡単です。もっとも、支払われた額を単純に半分するというのではありません。計算式があって、退職金額×寄与度×同居期間/在職期間で算出される額です。寄与度というのは、原則として0.5です。主婦でも夫の財産形成に半分は貢献しているとみられるようになってきたことは前回説明しました。したがって、退職金額の半分に同居期間/在職期間をかけるということだけ覚えておけばよいと思います。働いたことでもらう退職金でも、同居していない時期については配偶者が寄与することはないとの考えからです。

 では、将来の退職金についてはどうでしょうか。一応、「将来支給される高度の蓋然性がある場合には分与の対象とする」との考えが一般的とされています。この基準からすると、定年まで未だ相当の間がある場合や、会社が安定していないといった場合には、財産分与に含めることが否定されるでしょう。他方、定年が近い場合や定年退職はかなり先でもそれまで長く勤めてきて、会社も安泰といった場合には、分与対象となることでしょう。定年退職が13年後であった地方公務員について、分与の対象とした裁判例などはその一例です。

 以上は、定年退職金の分与についてもの、すなわち将来、定年になったときに支給される退職金に関し、現時点で分配請求権を取得するか否かの問題であることには注意が必要です。判決が出るとすれば「~会社から退職金の支払いを受けたとき、金~万円を支払え」という形になるわけです。

 一方そうではなく、離婚時に退職したとしたら、支給されるはずの退職金相当額を現時点で分与の対象とするという考え方もあります(広島高判平成19年4月17日)。

 次に税金についても少し触れておきます。原則として、財産分与に対しては税金がかかりません。前々回説明した離婚慰謝料についても税金はかかりません。ただ財産分与については、以下のような例外があります。

 まず、不動産を分与した場合、取得者は不動産取得税と登録免許税を支払わなければなりません。

 また、金銭以外の資産の譲渡について、分与財産の時価がその財産の取得額を上回れば、その差額が譲渡益として譲渡所得税の対象となります(所得税法33条)。ただ、譲渡する財産が居住用不動産の場合、譲渡所得3000万円までは特別控除として非課税となります(租税特別措置法35条・31条の3)。ここで注意すべきことは、上記特別控除が親族以外への譲渡に限定されるため、離婚手続後でなければ適用されないという点です。

 なお、余りに過大な財産分与がなされた場合、過大な部分について贈与があったものとして贈与税が課されることがあります。もっとも、婚姻期間20年以上の夫婦が居住用不動産を一方に贈与し、贈与を受けた者がその後も引き続き居住し続ける場合、配偶者控除として2000万円までは非課税となります。贈与税の基礎控除110万円と合わせれば、2110万円までは課税されないわけです。