1 はじめに

 こんにちは、弁護士の平久です。
 今回は、財産分与の対象となる夫婦共有財産についてご説明いたします。

2 財産分与の基準時

 夫婦の財産状態は、当然のことながら時間が経過すれば異なってきます。そこで、財産分与を考える際に、いつの時点での夫婦共有財産を対象とするかということを決める必要があります。これについては、そもそも財産分与というものは、夫婦が協力して築き上げてきた財産を対象とするものであるから、夫婦間の財産形成に対するお互いの協力が以後は見込まれないと推定される別居時を基準とするのが一般的です。

3 事業経営している場合

 夫婦や家族で事業を営んでいる方もたくさんいらっしゃるでしょう。そうした場合、離婚して出て行くことになる配偶者も、その事業に対して一定の貢献をしていると考えられますが、名義上は、夫の父親など経営の代表者の資産となっていたり、法人化されている場合は、法人名義とされていることも多いと思います。このような場合、財産分与についてどのように考えれば良いのでしょうか。

 裁判例において、離婚した夫婦が、養父母と家族で毛糸店兼新聞販売店(有限会社)を経営していた事案がありました。裁判所は、この有限会社が家族経営の域を出ないものとして、名義が個人か法人かを問わず、一家に蓄積された財産400万円をこの夫婦及び養父母の共有財産と判断しました。その上で、この夫婦の共有財産をその5分の2に相当する160万円とし、そのうち70万円について夫から妻へ財産分与を認めました(札幌高裁判決昭和44年1月10日家裁月報21巻7号80頁)。

 また、妻の貢献を平均賃金を基に算出した裁判例もあります(熊本地裁八代支部昭和52年7月5日判決判例時報890号109頁)。

 この事案では、離婚した夫婦は、夫の父が経営する畜産業に従事していました。この畜産農家は、夫婦の婚姻当初、乳牛10数頭を飼育している規模に過ぎませんでしたが、夫婦が別居する頃には、肉牛約580頭を飼育する規模まで拡大していました。ところが、その収入はほとんど夫の父に帰属していました。

 裁判所は、夫の父名義で形成取得した財産中には息子夫婦の労働による寄与分が存する上に、夫の父の死亡による相続等で将来夫の財産となる見込が十分あるとして、清算の対象となるとしました。その上で、夫婦の同居期間中の畜産業の発展に対する寄与分を、夫は、同年代の男子労働者の平均賃金、妻は同年代の女子労働者の平均賃金を基に算出して約1115万円とし、生活費約272万円を控除して約842万円を夫婦共有財産としました。そして、この金額を基準とし、寄与割合を平等と判断した上で、夫から妻に対する400万円の財産分与を認めました。

4 おわりに

 今回は、第三者・法人名義の財産分与についてお話しました。実際には、実質的に共有にあることの証明や評価方法の点などが難しい場合もあり、そのような場合には、財産分与の一事情として考慮され、扶養的財産分与の問題として処理されることもあります。

弁護士 平久真