前回は、不貞相手への慰謝料請求権の消滅時効について、不貞行為をされた配偶者が、不貞相手と配偶者の同棲関係を知った時から進行すると判断した最高裁平成6年1月20日判決について検討しました。
前回の記事はこちら:配偶者の不貞相手への慰謝料請求と消滅時効①

 今回は、この最高裁判決とは異なる判断をした東京高裁平成10年12月21日判決について検討したいと思います。

 この判決は

「第三者の不法行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求める場合、右損害は離婚が成立して初めて評価されるものであるから、第三者との肉体関係ないし同棲の継続等を理由として離婚を命ずる判決が確定するなど、離婚が成立したときに初めて、離婚に至らせた第三者の行為が不法行為であることを知り、かつ、損害の発生を確実に知ったこととなるものと解するのが相当である」

と判断しました。

 つまり、この高裁判決は、最高裁判決と異なり、一方配偶者の肉体関係ないし同棲関係の継続等を理由として離婚が成立したときから、不貞相手への慰謝料請求権の消滅時効が進行すると判断したのです。

 このように判断が異なったのは、慰謝料請求権の構成の違いがあったようです。最高裁では、不貞行為や同棲関係の継続という不法行為による精神的苦痛を損害として慰謝料請求するという構成で主張されたのに対し、高裁では、不貞行為や同棲関係が継続された結果、離婚をするにいたったことによって被った精神的苦痛を損害として慰謝料請求するという構成で主張されたのです。

 両方の判決は、事案が全く同じではないため、必ずしも慰謝料請求権の構成の違いだけで結論に違いが生じたのではないかもしれません。しかし、少なくとも、慰謝料請求権の消滅時効が問題になった場合には、高裁で主張されたように慰謝料請求権を構成するのが賢明だと思われます。

弁護士 竹若暢彦