商法522条本文は、「商行為によって生じた債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と規定しています。その趣旨は、商取引の迅速な結了の観点から、民法上の一般債権の消滅時効期間(10年、民法167条1項)を短縮する点にあります。

 では、取締役の会社に対する責任を規定した会社法423条1項に商法522条本文が適用され、5年間の消滅時効に服するのでしょうか。

 この点、改正前商法266条1項5号(会社法423条1項に相当)につき判断した事案につき、判例は、

「商法266条1項5号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任は,取締役がその任務を懈怠して会社に損害を被らせることによって生ずる債務不履行責任であるが,法によってその内容が加重された特殊な責任であって,商行為たる委任契約上の債務が単にその態様を変じたにすぎないものということはできない。また,取締役の会社に対する任務懈怠行為は外部から容易に判明し難い場合が少なくないことをも考慮すると,同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任については商事取引における迅速決済の要請は妥当しないというべきである。したがって,同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償債務については,商法522条を適用ないし類推適用すべき根拠がないといわなければならない。
 以上によれば,商法266条1項5号に基づく会社の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は,商法522条所定の5年ではなく,民法167条1項により10年と解するのが相当である。」

と判示しています。

 この判決によって、株主は、取締役の会社に対する責任を規定した会社法423条1項に商法522条が適用されず、5年の消滅時効に服することにはならないことになります。
 そうなれば、株主代表訴訟によって、株主が取締役の責任を追及する期間が伸びることになるので、株主による取締役の監視機能は高まるといえるでしょう。

弁護士 大河内由紀