1.総論

⑴ 婚姻費用の分担とは?

 夫婦が別居すると、婚姻費用分担の問題が生じます。そして、婚姻費用分担額については、いわゆる標準婚姻費用の算定表に基づく運用がなされています。この点については、これまで何回かご説明申し上げてきたとおりです。

 では、別居前の夫婦に財産としての不動産があり、これに住宅ローンが設定されていて、夫婦の一方(または双方)が、そのローンの支払いを継続している場合、それは婚姻費用の算定にあたって考慮されるのでしょうか。

⑵ 婚姻費用分担にあたり住宅ローンが問題となるケース

 よくご相談を受けるのは、配偶者の一方(仮に夫とします。)が、自宅を出て別居している状況において、夫がローンの支払い義務者でその支払いを継続しつつ、自宅に残った妻子の生活費も負担しているケースで、標準婚姻費用を計算すると12万円となり、これに加えて住宅ローンの支払いが6万円ということになると、非常に支払いが厳しいというようなパターンです。このようなパターンにおいて、自分はその住宅に住んでいないのだから、生活費6万円と住宅ローン6万円の合計12万円支払えばいいのではないか、というような問いを受けることがしばしばあります。

 この点、住宅ローンは、当該住宅の所有権を取得するための対価であり、名義人の資産を形成するための費用と考えられています。そして、夫婦相互の生活保持義務(婚姻費用分担義務の根拠です。)は最優先の義務とされていますから、資産形成のための費用を生活保持義務に優先させることはできません。ですから、住宅ローンの支払いを、婚姻費用の算定にあたって考慮することはできないとされるのが原則です。
 つまり、上記の例でいうと、婚姻費用と住宅ローンをあわせて18万円の支出が求められる可能性が高いということになります。

 とはいえ、このような結論が実質的公平に反する場合もあり得るでしょう。したがって、原則論を押し通せばそれで済むというものでもありません。そこで、いくつか場合分けをして少し具体的に見てみたいと思います。