妻と結婚して10年、待望の第1子が産まれました。
しかし、妻はその子が私の子ではなく、「2,3回しか会ったことのない男の人の子」だと言いました。
私はその子を自分の子として認めて届出するか大変悩みましたが、夫婦関係の実態は失われていませんでしたし、最終的には自分の子とする出生届をして監護養育しました。子供は大変かわいかったのですが、夫婦関係が悪化の一途を辿ったことで、最終的には子供が2歳の時に親権者を妻と定めて協議離婚することになりました。
以下、子供をX、私をY、妻をA、子供の本当の父親をBとして話を進めていきます。
現在AはBと生活を共にしており、AはXの法定代理人としてYに対して親子関係不存在確認の訴えを提起しました。
DNA鑑定の結果では、BがXの生物学上の父である確率は99%以上ということでしたが、YはXを実の子供のように想い大切に育ててきたので、今更親子関係を解消することに同意できるはずありませんでした。
それでは,親子関係不存在確認の訴えとは何でしょうか。
この訴えとセットで論じられることが多い嫡出否認の訴えから述べていくことにします。
妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定され(772条1項)、夫は、子の出生を知って1年以内に、嫡出否認の訴えによって、この推定を争うことができます(民法774条・777条)。
これにより、夫が出訴期間内に否認権を行使しない限り、法律上は夫の子であり、その後、夫婦が離婚し、妻が子と共に子の血縁上の父と法律上の親子関係を形成することはできません。出訴期間を経過すれば、夫自身も血縁のない子と法律上の親子関係を強制されることになります。
このようなことから、判例や家裁実務は解釈と運用によって当事者が望まない親子関係を解消することができるようにしてきました。それが親子関係不存在確認の訴えです。
親子関係不存在確認の訴えとは、嫡出子として推定される期間内に生まれた子供であっても、夫婦間に通常の夫婦としての生活が存在せず、妻が夫によって子供を懐胎することが明らかに不可能または著しく困難な事情がある場合には、「推定が及ばない嫡出子」ないし「推定を受けない嫡出子」として、民法772条の推定は受けないことを主張して親子関係の不存在を確認する訴訟です。
それでは、上記事例の場合、親子関係不存在確認の訴えはどのような帰趨をたどるでしょうか。
XはYとAが婚姻中に懐胎した子ですので、原則として嫡出子であると推定されます。
しかし、AはXの法定代理人として、現在XはAと同居しており、YとXの親子関係を解消したとしても子の利益が不当に害されることはなく、かつ、生物学上の親子関係の不存在が客観的に明らかであるから、嫡出推定は排除されると主張しました。
この点につき、最高裁平成26年7月17日判決では、上記のような事情があっても嫡出推定が及ばなくなるものとはいえないので、親子関係不存在確認の訴えを提起することはできないとしました。
それでは、当事者が望まない親子関係を解消することはできないのでしょうか。
そんなことはありません。
父と母との間で①父子関係解消の合意と、②合意に相当する審判をすることの合意が成立すれば親子関係不存在審判がなされることで父子関係は解消することができます。
要は、AとYが父子関係の解消に異存なければ父子関係の解消はできることになります。
ところが、本件事例では、Yが①に異議を述べたので、親子関係不存在確認訴訟に移行し、XとYの親子関係は解消することができないという判断をされてしまいました。
それでは、AとしてはXとYの親子関係を解消させる方法はなかったのでしょうか。
仮にAがBの子供を妊娠したことを分かった場合、AはすぐにYと離婚し、Xの出生後、役所に出生届を出さないで(もちろん役所には事情を説明して)、XがBの子であることを認める認知調停を申立てることが考えられます。
この問題は場面によって様々な解決策が考えられる問題ですので、上記のような問題にお困りの方は、弁護士法人ALGまでお気軽にご相談下さい。