こんにちは。今日は、夫の不貞行為が婚姻関係破綻のもっとも大きくかつ直接的な原因でありながら、離婚の請求を認容した裁判例(札幌家庭裁判所平成27年5月21日判決)をご紹介します。

 本件で、夫であるXは、妻であるYに対し、婚姻関係が破綻し「婚姻を継続しがたい重大な事由」を有するに至ったと主張し離婚を求めたのに対し、Yは婚姻関係の破綻自体を争うとともに、不貞行為をしたXからの離婚請求は信義則に反し許されないと主張しました。

 本件では、①婚姻関係が破綻したか否か、②有責配偶者からの離婚請求であり認められないのかが争点でしたので、今日はまず①についてお話します。(②は後日お話しする予定です。)

 XとYは婚姻期間18年半であるのに対し別居期間は約1年半(本件口頭弁論終結時)と短かったのですが、以下のような経緯から婚姻関係の破綻が認められました。

 同居中、YがXに秘して多額の借金をしていたことを知りXがYに対し不信感が芽生え、Yが家計の収支バランスを熟慮することなく杜撰な家計管理を続けたことにより、不信感が増大して夫婦関係がギクシャクするようになり口論が増えていきました。
 さらに、XがYに肉体関係を求めたのに対し風俗店に行ったらどうか等と言われて不満がさらに膨らみ、こうした中でXは不貞相手と出会い好意を寄せるようになったという経緯がありました。そしてXは不貞行為に及んだものの、夫婦関係の修復を考え家族旅行に出かけるなど努力しましたが修復はかないませんでした。

 Xは次第に離婚を考えるようになり、単身赴任中も二人の間に電話でのやりとりがなくなっていき、Yは自宅の鍵を取り替えた際に鍵が変わったことを知らないXがチャイムを何度も鳴らしたものの、Xに対する恐怖心からXを自宅に入れることができずその後もYはXにスペアキーを渡すこともありませんでした。

 次第にメールでのやりとりの内容も口論めいたものが多くなり、YがXらに対し不貞慰謝料請求訴訟を起こし、僅かに続いていたメールのやりとりもついにはなくなっていったとの経緯がありました。

 裁判所は、このような経緯からXが不貞相手と肉体関係に及んだ時点では到底婚姻関係が破綻するに至っていたとはいえないが、鍵の取替後YのXに対する恐怖の情及び嫌悪の情が外形的にも明らかとなったと言うことができ、主観的にも客観的にも婚姻関係が完全に破たんするに至ったと判断しました。