離婚の相談を受けていると、夫(または妻)が「離婚してやる」と言ったり「離婚なんかしない」と言ったりして結局どうしたいのかがわからず、離婚の話が進まない、という嘆きを聞くことがときどきあります。
 たとえば、「離婚してやる」との捨て台詞とともに、夫(または妻)の署名押印のある離婚届を叩きつけられていた場合、あなたはそれを使いますか。

 本日は、叩きつけられた離婚届を使った離婚に関する高裁判例を2つご紹介します。

① 東京高裁平成21年7月16日判決(判タ1329号213頁)

 ①では、1月に夫が署名押印した離婚届を利用して、妻が10月に離婚の届出をしたというケースで、離婚は有効と判断されています。
 離婚が有効であるためには、離婚の届出時に離婚意思がなければいけませんので、9か月も前に署名押印した離婚届については既に離婚意思に変化があったと判断されてもおかしくありません。

 しかし、このケースでは、夫が離婚届に署名押印した後に、
・夫婦の自宅を売却し借金の返済に充て、
・残金を夫婦で分割取得し、
・夫婦それぞれに居住先を確保し別居状態となっており、
 夫が離婚届に署名押印したときよりも、婚姻関係が悪化していることから、届出時にも離婚意思が認められました。

②東京高裁平成20年2月27日判決(判タ1278号272頁)

 一方、②は、夫が署名押印するとともに、夫が子の親権を行うと記載した離婚届を、1か月以内に妻が親権者を妻に訂正した上で届出をしたケースです。
 離婚意思について、子の親権者を夫と指定して署名押印された離婚届からは、子の親権者を夫とすることを前提とする夫の離婚意思が読み取れるのみで、親権者が誰になろうともとにかく離婚するとの意思が夫にあったとまでは認められないと判断されています(もっとも、その後、夫は離婚無効調停を取り下げるなどしており、離婚を追認したと認められていますが。)。
 さらに、親権者の指定については、協議・合意があったとはいえないことから、子の親権者を妻と指定する協議が無効であることが確認されています。

 以上のように、夫(または妻)から叩きつけられた離婚届を使う場合、叩きつけられてからどのくらいの期間が経過しているか以外にもさまざまな事情が考慮されて離婚意思の有無が判断されることになります。
 離婚の届出をした後に離婚無効が主張される場合、感情的なこじれが悪化するケースもありますので、離婚の届出の前に一度冷静になり、弁護士の意見も参考にされることをおすすめします。

 余談ですが、離婚を拒んでいる夫(または妻)になりすまして、離婚届を作り出して離婚の届出をしても、離婚無効が主張され認められる可能性が高い上に、私文書偽造罪や公正証書原本不実記載罪など刑法上の犯罪に問われるおそれもありますので、絶対に早まらないでください。
 どんなに不利な立場であっても、何かしら弁護士が力になれることがあるかもしれませんので、一度ご相談にお越し下さい。