皆様、こんにちは。

1 イントロ

 今回は離婚が認められるか認められないかについてのお話です。

 例えば、仮に離婚が認められるだけの理由があるとして、一方の配偶者がその原因を担っていた場合、その者が調停が不成立なったために離婚裁判を起こしてきた場合、裁判所はどのような判断をするのでしょうか。

2 有責配偶者からの離婚請求

 例えば、不倫していた夫が離婚裁判を起こした場合、有責配偶者からの離婚請求と呼ばれるケースにあたるとされています。

 不倫、すなわち不貞行為は条文上離婚原因の一つであるところ、このような離婚原因の発生を担っている当事者からの離婚請求を認めることが、果たして許されていいものなのか、長いこと議論が続けられてきました。

 かつての裁判所は真っ向から否定していました。しかし、その後最高裁の判決(最高裁昭和62年9月2日判決)を経て、現在は有責配偶者からの離婚請求についても認められる余地があります。

 しかしながら、離婚請求が認められるには依然として高いハードルを越えなければなりません。

 以下、裁判例を紹介しながらご説明します。

3 認められた例

(1)お互い不貞行為をしてしまったと思われるケースです。

 甲(夫)の仕事の都合により家族全員で海外で暮らしていたところ、甲の海外赴任が終わり帰国することになりました。

 帰国後、乙(妻)はその経験を生かして日本語学校の教師の仕事に就いたのですが、生徒の外国人青年を自宅に連れ帰ったり、青年の妻から乙と青年がラブホテルに出入りしている等の話をされたことから甲は乙と青年関係を疑うようになりました。このため、元々会話の少ない夫婦が益々疎遠になってしまいました。

 その後、甲は乙との生活に耐えきれず料亭でアルバイトをしていた丙と親密な関係となり、甲は乙と別居して丙と同棲するようになりました。

 乙から代理人を通じて離婚の話を持ちかけられましたが、甲は調停を経た後、自ら離婚訴訟を提起しました。

(2) 第1審の東京地裁は甲の請求を認めませんでしたが、第2審の東京高裁が離婚を認めました(東京高裁平成14年6月26日判決)。

 前記の最高裁の考え方によれば、有責配偶者から離婚請求がなされた場合、原則は信義誠実の原則(民法1条2項参照)に反し認められないというスタンスですが、婚姻期間と別居期間の長短、未成熟子の有無、離婚を認めた場合の他方配偶者の社会生活上の影響等を考慮して離婚を認めることがあります。

 つまり、別居期間が長ければ、もはや夫婦としての関係は風化したようなものですし、離婚して生活が困難になるような要因がなければ、責任を問うよりも現状を踏まえて離婚させた方がすっきりするだろうという判断です。

 今回の例についてみると、別居期間は6年と婚姻期間の22年の4分の1程度にとどまり、証拠上も乙が青年と不貞行為に至っていたかまで立証しきれていませんでした。しかし、甲が乙と青年が仲睦まじくしている姿を見て甲と乙の溝が深まったことは認定されており、さらに、乙は英語学校の教師として月35万円の収入を得る身となっていて、なおかつ住宅ローンは甲が完済するまで払い続けると約束していたので、裁判所は離婚を認めても乙が甚大な不利益を被ることはないだろうと判断したと思われます。

4 認められなかった例

 上記のケースを見ていると離婚はすんなり認められそうですが、なかなかそうはいきません。

 婚姻期間が約6年、別居期間が約2年4ヶ月のケースですが、A(夫)がB(妻)の異様な潔癖性に耐えかねて別の女性との交際をはじめ、別居するようになりました。Aから離婚訴訟を提起することになりました。

 しかし、最高裁は、別居期間が相当の長期間とはいえないこと、離婚することによって子宮内膜症を患って生活費を稼ぐことが困難で7歳の未成熟子を抱えるBを精神的、経済的に厳しい状況に追い込むとして、Aの離婚請求を認めませんでした(最高裁平成16年11月18日判決)。

 この例は、別居期間が比較的短いだけでなく、Aからの仕送りを切り離されると生活できなくなる危険性が濃厚でした。

5 最後に

 最高裁の考え方は総合的に使われるので、別居期間は最低何年必要かという目安はありません。その他の事情も勘案しながら判断されることになります。

 総じて見ると、不貞行為を行った配偶者から離婚請求をする場合、請求者側は裁判所の高いハードルを意識せざるを得なくなります。

 逆に、請求を受けた側は不貞行為の事実や証拠を押さえていれば交渉や調停段階でも比較的優位に立てます。この場合、こちらも内心は離婚したいと思っていても、ひとまず証拠集めに徹し、相手方の出方を見つつ有利な条件を提示させるように働きかけていいかもしれません。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。