1.制度の概要~被害者の負担を軽減~

 犯罪が発生した場合、加害者が刑事責任を負うことは勿論ですが、それとは別に、被害者は加害者に対して、民事上、損害賠償を請求することができます。しかし、加害者の刑事責任について審理する刑事裁判と損害賠償責任について審理する民事裁判は、同一の事実関係を背景に持つにもかかわらず、別個の裁判です。よって、刑事裁判によって事件の全容が明らかになっている状況であっても、被害者は、一から民事裁判の準備を行わなければなりません。

 そこで、刑事裁判を担当した裁判所が、有罪判決の言渡しをした後、引き続き損害賠償請求についての審理も行い、加害者に損害の賠償を命じることができる制度が設けられています。この制度によって、損害賠償請求に関しても刑事裁判の結果を利用することができるため、刑事裁判とは別に民事裁判を提起しなければならない場合に比べ、被害者の方の立証の負担が軽減されることになります。

2.ポイント

(1)どのような手続きをとれば良いか?

 刑事事件の弁論終結時までに、事件が係属している地方裁判所に対して、『損害賠償命令の申立て』を行います。なお、申立に要する手数料は、2000円です(請求金額の多寡にかかわらず一律)。また、この制度を利用する際に弁護士に依頼することも可能です。

(2)裁判に参加しないといけないのか?

 刑事裁判への参加の有無にかかわらず、損害賠償命令を申し立てることが可能です。ただし、申立てを行うことができるのは、検察官が起訴状を裁判所に提出してから弁論が終了するまでの間となります。

(3)対象となる犯罪は?

① 殺人、傷害などの故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
② 強制わいせつ、強姦などの罪
③ 逮捕及び監禁の罪
④ 略取、誘拐、人身売買の罪
⑤ ②~④の犯罪行為を含む他の犯罪
⑥ ①~⑤の未遂罪

 上記の犯罪の刑事事件の被害者本人、一般承継人(相続人)が利用することができます。よって、業務上過失致死傷、重過失致死傷、自動車運転過失致死傷などの過失犯は対象となりません

(4)控訴審においてできるか?

 損害賠償命令の申立ては、地方裁判所に限られるので、高等裁判所で審理される控訴審においては、申し立てはできません。

(5)無罪判決が出た場合は?

 損害賠償命令の申立ては却下されます。ただ、この場合でも、改めて通常の民事訴訟を提起することは可能です。

弁護士 細田大貴