最近、本邦の大手新聞の在外支局長職にあった邦人が、名誉棄損の疑いで起訴されたという事件が耳目を集めています。
高度に政治的な問題を孕む案件なので、本稿で中身に踏み込むことは控えますが、本件のように、日本人が海外で訴追された上、もし有罪として実刑判決を受けてしまった場合、訴追された人はどのような扱いを受けるのでしょうか。

日本国内で在宅起訴され、あるいは勾留を経た後に保釈された状態で実刑判決を受けた場合、被告人は検察当局により呼び出しを受け、収容されて刑に服することになります。これに応じなかったとしても、収容状に基づいて身柄を拘束され、その後同様に刑の執行が行われるという違いがあるだけで、いずれにせよ法律に基づいて刑事施設に引致されることになります。

これに対し、国外で刑事裁判にかけられ、その国で実刑判決が下されたとしても、被告人が同様に身柄を収容されるわけではありません。前述の被告人の収容手続は我が国における刑罰権実現のため刑事訴訟法に規定されているものであって、海外での有罪判決が同じ手順に基づいて実現されるわけではないからです。

では、日本人が海外で犯罪行為を行った場合に、日本に逃げ帰れば刑に服さなくてもよくなるのかというと、当然ながらそういうわけではありません。このような場合を規定するのが、「逃亡犯罪人引渡法」という法律です。

この法律では、政治犯や軽微な犯罪など、列挙されている除外事由に該当する場合を除いて、外国から犯罪人の引渡請求がなされた場合の手続について規定しています。具体的には、引渡請求を受けた外務大臣が法務大臣に、法務大臣が東京高検に、それぞれ書類を回付し、東京高検から東京高裁へと審査請求を行い、東京高裁からの令状の発付を受けるという手順で、極めて厳密に拘禁の要件充足の有無を判断することになっています。

韓国や米国など、この法律よりも引渡の要件を緩和した二国間条約を締結している国もあり、実際の扱いは個々の相手国によってさまざまなようですが、いずれにせよ、「日本まで逃げてくればそれで終わり」でないことは明らかです。

ところで、日本国外での犯罪であっても、日本の刑法に基づいて処罰される場合もあります。
パスポートコントロールを通過した外でも、日本の船や飛行機内はすべて日本国内と同様に扱われるので、ハイジャック防止法にあたる行為はもちろん、暴行や脅迫などの行為であっても、日本の法律で裁かれますし、通貨偽造や公文書偽造等の罪は外国で行われたものであっても日本の刑事罰の対象となります。
ちなみに、名誉棄損についても、国外で日本人が犯した行為について日本刑法による処罰の対象となっているわけでして(刑法3条12号)、頭記の事件の今後の帰趨が注目されるところです。

なんだか刑法の講義みたいな内容になってしまいましたが、刑事手続のマメ知識として紹介させていただいた次第です。