こんにちは。今回は、東京地裁平成17年12月21日判決を紹介したいと思います。

 事案は、事故当時22歳であった被害者男性が、片側1車線道路を自動二輪車で直進していたところ、先行していた加害者の運転する自動車が、路外へ左折した後、後退してきたため、被害者と衝突したというものです。被害者は、7歯に歯科補てつ、12級の顔面醜状を残し、併合11級の後遺障害が認定されました。男性は、かみ合わせに違和感が残り、スープ等、液状のものを食べていると口からこぼれ落ちるなど、日常生活において不便が生じ、また、顔面の傷がコンプレックスとなり、対人関係で消極的になりました。そして、仕事面では、男性は、事故当時、オペレーターとして勤務していましたが、退職し、その後、約1年間の留学を経た後、輸入販売を業とする会社に転職し、貿易事務の仕事に就いています。

 このような事情がある中で、判例は、被害者の逸失利益について、被害者は、日常生活において不便を感じ、精神的な苦痛を被っているということはできるものの、それ以上に労働能力への直接的な影響を受けているとまではいえないとして、逸失利益を認めませんでした。そして、対人関係に消極的となり、被害者の労働意欲その他労働能力に間接的に影響を及ぼしている点は、後遺障害慰謝料で考慮すると判示しています。

 醜状痕の逸失利益を認める判例の多くは、労働能力を現在の職種との関係においてとらえるだけでなく、将来の就職、昇進、昇給転職の可能性といった社会的諸条件、諸要素も加味して、労働能力及びその喪失を考えていこうとする立場(広義説)に立っているとされています。広義説では、幼児、学生、一般事務職の女性にも逸失利益が認められる可能性があり、妥当であると考えます。

 そして、広義説によっても、今までは、男性の場合、逸失利益を認められることが難しかったのですが、後遺障害等級において、男女差が撤廃されたことから、今後は、男性にも逸失利益が認められる判例が増加してくるかもしれません。

 本件の被害者は、実際に再就職が出来ているものの、対人関係で消極的になっている等の支障が認められる以上、逸失利益を認定しても良かったのではないかと思います。