1 相手の保険会社から治療費の直接払いを打ち切られる?

 こんにちは、弁護士の辻です。

 交通事故に遭い、怪我をした場合に問題となるものとして、相手方の任意保険会社から、病院に対する治療費の直接払いが打切られるという問題があります。保険会社が治療の終わりを決めるのでしょうか、という形でご相談をうけることもあり、多くの事故で問題とされていると考えます。

 これは、法的に考えれば、症状固定日はいつとされるのかという問題が根本にはあります。
 以前のブログ( 症状固定?後遺障害申請?第1回 )で、症状固定日の定義などはご説明したので、今回は、実務上、どのような形で争われるのか、そして裁判ではどのように考えられているのかについて、ご説明させていただきたいと思います。

2 相手の保険会社が直接払いを打ち切ると主張する時点が症状固定日なのか?

 交通事故の場合、相手方に任意保険がついていれば、病院への治療費は、相手方の任意保険会社(又は共済、以下同。)が、直接病院に治療費の支払いを行ってくれていること(以下、単に「直接払い」といいます。)が多いです。

 これは、被害者の方が、窓口での金銭的な負担を気にせず、治療に専念できることから、非常に素晴らしい仕組みだと思います。
 しかし、この直接払いが、永遠にされることはありません。
 勿論、怪我の程度によりますが、あるとき、急に今月末くらいで直接払いを打ち切らせてほしいと告げられることがあります。
 これは、賠償的にいえば、相手方保険会社としては、その月末をもって、事故による傷害の治療は終わり=症状固定に至ったと考えます。ということです(それ以降の治療費の支払義務はないと考えている、と言ってもよいかもしれません。)。

 これを受けて、被害者の方は、治療の終わりを保険会社が決めるのか!と怒るわけです。

 では、相手方保険会社が直接払いを打ち切ると主張する時点、これが症状固定日とされるのでしょうか。

3 症状固定日の判断

 いわゆる赤い本の下巻の中に、髙木健司裁判官による「症状固定について」という講演があります(平成25年赤い本下巻7頁以下)。

 その中で、「症状固定時期がいつか、すなわち、医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態であることを前提に、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態がいつかについては、当該傷害に対する医学上に承認された治療方法にどのようなものがあり、それがどのような効能等を有するのか、当該傷害については一般的にどの程度改善する可能性があり、それにどの程度の期間を要するのかなどについての医学的知見を踏まえ、直接被害者の治療、経過観察に当たり、当該被害者がどのような症状経過をたどってきたのか、当該被害者は一般的な症状経過のどの段階にあるのかなどについて検討し、症状がこれ以上改善しないとした医師の判断は、基本的に尊重すべきであると思われます」。
 ただし、「治療によって少しでも症状の改善を目指そうとする医師がこれ以上改善しないと判断することと、人身損害に係る損害賠償訴訟において裁判所が症状が最終の状態に達したと判断することとは別個のことであり、当該医師の判断が人身損害賠償訴訟の観点から見ても合理的かどうかは、検討しておく必要があると思います。」ともされています。

 ここでいう合理性の判断は、

①傷害及び症状の内容(例えば、神経症状のみか)
②症状の推移(例えば、治療による改善の有無、一進一退か)
③治療・処置の内容(例えば、治療は相当なものか、対症療法的なものか、治療内容の変化)
④治療経過(例えば、通院頻度の変化、治療中断の有無)
⑤検査結果(例えば、他覚的所見の有無)
⑥当該症状につき症状固定に要する通常の期間
⑦交通事故の状況(例えば、衝撃の程度)

などの観点から判断しているとされます。
 仮に不合理であると裁判所が判断した場合は、裁判所が、別途適切な時期を症状固定日として判断することになるでしょう。

 ちょっと長くなりましたが、要するに基本的には医師の判断が尊重されるということです。但し、それが損害賠償の観点から見て、不合理なものである場合には、裁判所によって、別途適切な時期が症状固定日として認定されることになっています。

 したがって、症状固定日というものは、基本的には医師の診断によって決まるものであって、少なくとも相手方の保険会社が決めるわけではありません。
 そのため、相手方保険会社に直接払いの打切りを主張された場合、基本的には、医師の判断を仰ぐのが妥当であり、医師が、未だ症状固定ではないと診断するのであれば、基本的には、それが尊重されるべきでしょう(もちろん、事案によりますが)。

4 とはいうものの、相手方保険会社に直接払いを打ち切られることはある。

 もっとも、相手方保険会社は、医師の判断がどうであろうとも、今月末に打ち切るといったら今月末で打ち切ります。と、直接払いを打切ってくることはあります。

 裁判所は、基本的に医師の判断を尊重しますので、裁判をすれば認められる治療期間であったとしても、実際には治療費の直接支払いというものは打ち切られることがあります。
 実際、相手方保険会社に治療費の直接支払いを打切った以降も、医師の指示の下、治療を継続した被害者の方の治療費が、裁判等で認められることはあります。

5 直接払いの打切りを主張され、悩まれている方はぜひご相談ください

 まとめになりますが、症状固定日の判断においては、基本的に医師の判断が尊重されます。
 しかし、現実の交渉において、相手方保険会社が医師の判断を尊重せず、治療費の直接支払いを打ち切ってくることはあります(相手方からすれば、医師の判断が人身損害賠償の観点から見て不合理であるという主張になるのでしょうか。)。

 医師の判断を書面で提出したりして、相手方保険会社に対し、直接払いを延長するよう交渉したり、健康保険を使用して通院を継続したり、いっそ後遺障害申請に移行するなど、様々な対応が考えられますが、いずれにせよ個人で対応することは困難なことが多いでしょう。

 当法人に寄せられる交通事故に関するご相談の中でも、直接払いの打切りで悩まれている被害者の方は非常に多く、実際にご依頼いただくことも非常に多いです。
 相手方保険会社から、直接払いの打切りを主張され、悩まれている被害者の方は是非一度、当法人にご相談ください。