こんにちは。今回は外貌醜状痕による逸失利益について説明したいと思います。

 まず、前提知識を説明しておきます。後遺障害による逸失利益が認められるのは、後遺障害により労働能力の全部または一部が喪失し、その結果、後遺障害がなければ得られたであろう利益が得られなくなったと認められる場合です。

 そして、今回取り上げる外貌醜状痕は、それ自体から直ちに労働能力が喪失したということが難しいため、裁判上で逸失利益が争われることが多い後遺障害です。

 具体的な裁判例を見てみたいと思います。

名古屋地判平成22年9月8日

「原告Xは、前記のとおりの後遺障害を負ったが、その理由は顔面醜状であり、家事労働に影響が出る可能性は少なく、他に逸失利益を認めるに足る証拠はない。したがって、逸失利益は認められない。」

東京地判平成22年8月31日

「・・・原告が主婦であることからこれが大きく労働能力に影響するとは考えられないが、主婦であっても人と接する仕事は少なくないし、労働能力に影響が全くないとはいえないこと、また、ひきつれによる違和感が認められること、歯牙損傷による補綴は、家事労働その他に一定の程度影響を与えると考えられることから、(労働能力喪失率は、)16%とするのが相当である。」

 上記の二つの裁判例は、共に女性で職業は主婦である被害者に関する逸失利益について判断したものです。

 同じ外貌醜状痕といっても、部位に違いがあり、また、後者の裁判例においては、ひきつれや歯牙損傷などの後遺障害があるので単純に比較することはできません。

 しかし、後者の裁判例は、主婦という職業であっても人と接する仕事があることに配慮して、外貌醜状が主婦の労働能力に与える影響を判断していることから、ひきつれや歯牙損傷がなくとも労働能力の喪失を肯定する立場にたっていると思われ、前者の裁判例とは大きく異なる立場であると言えます。

 また、外貌醜状により、対人関係に消極的になる等の形で間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれが認められる場合には、後遺障害慰謝料の加算事由として考える立場もありますが、前者の裁判例においては特に加算事由としてもあげられていないので、労働能力に対する影響は与えないと判断していると思われます。

 以上に見たように、同じ主婦という職業にあっても、被害者の外貌醜状痕による労働能力の喪失については、判断者により大きく結論が異なっています。このように、外貌醜状痕による労働能力喪失の判断が困難であることから、訴訟上、外貌醜状による逸失利益については争点となりやすいことがおわかりいただけたかと思います。