1 東名高速夫婦死亡事故事件の概要

 2017年6月5日、東名高速道路で起こった悲惨な事故に、世間が注目しました。
 本件事故の内容について、報道された情報を前提に整理すると、概ね次のとおりです。

本件事故の内容

① パーキングエリア内の駐車場で被疑者Aと被害者Vとの間であるトラブルがあった後、V車は先にパーキングエリアから高速道路に出て行った。
② その後、A車もパーキングエリアから高速道路に出て、V車を追いかけた。
③ A車は、V車に追いつき、高速道路上において、V車に後方から極端に接近する、V車の前に割り込んで減速する等、V車の走行を妨害する行為を、約1.4キロメートルにわたって繰り返した。
④ V車はやむを得ず高速道路上に停車し、A車もV車の前に停車した。
⑤ Aは、V車からVを引きずり出そうとする等して、Vと口論になった。
⑥ VとAが高速道路上にそれぞれの車を停車してから約3分後、高速道路を走行してきた大型トラックがV車に追突した。
⑦ ⑥により、Vは死亡した。

※本件事故の内容は、本稿のテーマに関連のある部分に絞って整理しました。
※本稿では、上記事実関係を前提にお話しします。但し、本稿の掲載時点では、本件事実関係について未だ裁判手続等において確定しておらず、上記事実関係は、本稿の掲載時点の報道等をもとに整理したものにすぎません。この点につきご理解いただいた上で、読み進めていただければと思います。

 一部報道によれば、横浜地検は、平成29年10月31日、Aを危険運転致死傷罪や暴行罪の罪名で起訴したようです。

 AのVに対する行為に関して、横浜地検が起訴した罪名が「危険運転致傷罪」なのか「危険運転致死罪」なのかは明らかではありませんが、本稿では便宜上、「危険運転致死罪」で起訴されたものと仮定します。
 ちなみに、「危険運転致傷罪」の法定刑は15年以下の懲役、「危険運転致死罪」の法定刑は1年以上の有期懲役とされています(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律、2条)。

 本件においては、過失運転致死傷罪ではなく危険運転致死傷罪が成立するのか(故意犯か過失犯か)、停車してから約3分後の追突事故であるため、危険運転によって死傷させたといえるのか(行為の一体性)、殺人罪が成立するのではないか(殺意の有無)等、様々な論点があると思われます。

 その中でも、本稿では、「Aの行為とVの死亡結果との間に因果関係が認められるのか」という点について、ご説明しようかと思います。

 なお、一部報道によれば、Vの車に追突した大型トラックの運転手については、既に不起訴処分とされているようです。

2 因果関係について

⑴ どうしてAが危険運転致死罪で起訴されたのか?

 世間では、危険な妨害行為をしたAに対する非難の声が大きかったように思われます。
 そのためか、Aを過失運転致死傷罪の罪名で逮捕したとの報道や、危険運転致死罪の罪名で起訴したとの報道にも、疑問の声はほとんどなかったように感じられます。

 しかし、よくよく考えてみてください。
 Vが死亡したのは、「大型トラックがVの車に追突したから」ではないでしょうか。
 仮に大型トラックがVの車に追突しなければ、Vは死亡しなかったのではないでしょうか。
 確かにAはVの車に対して危険な妨害行為(危険運転行為)をしたのでしょうが、「Aの危険運転行為が原因で、Vが死亡した」とまでいえるのでしょうか。

 Aについて危険運転致死罪が成立するためには、「Aの危険運転行為」と「Vの死亡」との間に因果関係が認められる必要があります。
 仮に、このような因果関係が認められなければ、「Vの死亡」についてAに責任を負わせることはできないので、危険運転致死罪のみならず過失運転致死罪の罪責を問うこともできないことになります。

 果たして、「Aの危険運転行為」と「Vの死亡」との間に因果関係が認められるのでしょうか。

⑵ 因果関係の考え方

 まずは、犯罪の成否を問うときの「因果関係」の考え方について、ご説明します。

 因果関係が認められるためには、「①事実的因果関係」と「②法的因果関係」の両方が認められる必要があります。

① 事実的因果関係(条件関係)

 事実的因果関係とは、「行為」と「結果」の間に事実的な関係(つながり)が存在することをいいます。
 この事実的因果関係は、基本的には、「あれなければこれなし」という条件関係がある場合に認められるものと考えられています。
 つまり、「その行為がなければ、その結果は発生しなかった」といえれば、事実的因果関係は認められます。

 本件にあてはめてみると、まず、通常、渋滞でもしていない限り、高速道路上に車を停車することはないと考えられますので、「Aの危険運転行為」がなければ、Vの車は高速道路上に停車することはなかった、といえるでしょう。
 そして、Vの車が高速道路上に停車しなければ、大型トラックがVの車に追突することもなく、Vが(そのときに)死亡することもなかったといえるでしょう。
 そのため、「Aの危険運転行為」がなければ「Vの死亡」という結果は発生しなかったといえますので、事実的因果関係は認められると考えてよいでしょう。

② 法的因果関係(危険の現実化)

 「行為」と「結果」の間の事実的な関係(つながり)の存在(事実的因果関係)があるとしても、それだけでは犯罪は成立しないと考えられています。
 なぜなら、仮に事実的因果関係があったとしても、「たまたま結果が発生してしまった」(偶発的な結果)という場合もあり得ますので、そのような場合にまで、その結果の責任を負わせてしまうのは適切でないと考えられているからです。

 そこで、事実的因果関係があることを前提に、さらに、その結果を行為者に負わせてもよいといえる場合に限って、犯罪の成立が認められるものと考えられています(これを「法的因果関係」ということがあります)。
 法的因果関係の判断基準については、学説上は様々な見解がありますが、判例・実務では、「危険の現実化(説)」という考え方に従って判断されているといわれています。

 危険の現実化(説)とは、簡単にいえば、「行為の中に含まれている危険」が「結果の中に現実化した」といえるか、という考え方をいいます。
 つまり、当該結果を生じさせるほどの危険な行為をしたために実際に当該結果が発生したのだといえる場合には、当該結果について責任を問われてもやむを得ない、ということです。

 それでは、本件において、法的因果関係(危険の現実化)は認められるでしょうか。

⑶ 過去の類似した判例から考える

 ここで、東名高速夫婦死亡事故事件の事案と類似した、ある判例(平成16年10月19日最高裁判所決定)をご紹介します。

(事案の内容)

① 高速道路を乗用車で走行していた甲が、トレーラーを運転して同方向に走行していた乙の自動車の運転態度に立腹し、乙に文句を言い謝罪させようと考えた。
② 甲は、乙車の前に自車を割り込ませて減速する等して、執ように乙に停車を求め、ついには、夜明け前の暗い高速道路のかなり交通量のある追越車線上に自車及び乙車を停止させた。
③ 乙は、甲に自車のエンジンキーを取り上げられることを恐れ、これを自車のキーボックスから抜いて、自らのズボンのポケットに入れた。
④ 乙が甲から暴行等を受けた後、甲が自車に乗ってその場を去ったため、乙も自車を発車させようとしたが、エンジンキーが見つからなかったため、暴行を受けた際に甲に投棄されたものと勘違いして、付近を捜す等していた。
⑤ 甲車が走り去ってから7、8分後、後方から高速度で進行してきた被害車両が乙車に衝突した。
⑥ ⑤により、被害車両の運転者らが死傷した。
※なお、死傷したのは甲によって高速道路上に停車させられた乙ではなく、追突した車の運転手らであるという点で、東名高速夫婦死亡事故事件とは事案を異にしています。

 この事案において、最高裁判所は、因果関係について次のように判断しました。
 「乙に文句を言い謝罪させるため、夜明け前の暗い高速道路の第3通行帯上に自車及び乙車を停止させたという甲の本件過失行為は、それ自体において後続車の追突等による人身事故につながる重大な危険性を有していたというべきである。そして、本件事故は、甲の上記過失行為の後、乙が、自らエンジンキーをズボンのポケットに入れたことを失念し周囲を捜すなどして、甲車が本件現場を走り去ってから7、8分後まで、危険な本件現場に自車を停止させ続けたことなど、少なからぬ他人の行動等が介在して発生したものであるが、それらは甲の上記過失行為及びこれと密接に関連してされた一連の暴行等に誘発されたものであったといえる。そうすると、甲の過失行為と被害者らの死傷との間には因果関係があるというべきである」

 最高裁の上記判断は、要するに、甲が乙車の走行を妨害し、高速道路上に停車させた行為には、その場所が「夜明け前の暗い高速道路のかなり交通量のある追越車線上」であったこともあり、「それ自体において後続車の追突等による人身事故につながる重大な危険性」が含まれているものであるから、被害者らの死傷結果は、まさに当該行為の危険性が現実化したものである、ということだと考えられます。

⑷ 本件についての検討

 それでは、東名高速夫婦死亡事故事件について検討してみます。

 Aは、Vに対して危険運転行為をした上で、Vの車を高速道路上に停車させました。
 このAの危険運転行為の中に含まれている危険がどのようなものかを検討する必要があります。
 (なお、厳密には、危険運転行為と停車行為や停車後の暴行等との行為の一体性も論点となりますが、本稿では、その詳細については割愛し、行為の一体性はあるという前提で話を進めることとします。)

 高速道路では、法律上、車両の走行速度について最低速度が決められており、原則として、一定の速度より遅い速度で走行してはならないことになっています(道路交通法75条の4)。
 また、高速道路上では、原則として、停車や駐車をしてはならないこととされています(道路交通法75条の8)。
 そのため、高速道路には、停車することを想定しておらず、最低速度以上の速度で走行する車両が多数存在するのが通常であると考えられます。
 そうすると、このような高速道路上で車両を停車させる行為には、前記判例と同様に、「後続車の追突等による人身事故につながる重大な危険性」があるといってよいでしょう。
 本件では、V車を停車させた場所は、あまり車両が走行しない高速道路の端のスペース等ではなく、いわゆる追越車線上であったといわれていますので、その危険性はよりイメージしやすいか思います。

 そして、V車は、まさに「後続車である大型トラックの追突によって死亡した」のですから、Aの危険運転行為の中に含まれている危険が現実化したものといえるでしょう。

 以上のとおり、本件では、法的因果関係も認められ、因果関係があるといえると考えられます。

 東名高速夫婦死亡事故事件は大きく世間をにぎわせましたが、Aの行為とVの死亡結果との間の因果関係という視点からこの事件を捉えた報道は、少なくとも私は見かけませんでした。
 ニュース等の報道を見るときに、上記のような考え方をもとに因果関係についても着目してみると、その見え方が少し変わってくるかもしれません。