こんにちは。桜が綺麗ですね。 今回は、被害者側の過失についてお話したいと思います。
過失相殺に関する民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定しています。
ここにいう「被害者に過失があったとき」とは、単に被害者本人の過失のみならず、広く被害者側の過失を包含すると考えられています。
そして、「被害者側の過失」とは、判例上、「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失」を言うとされています。
このように、被害者本人の過失だけでなく、被害者と一体関係にある者の過失にも過失相殺を認めるのは、加害者が一旦被害者に損害を全額賠償した後、被害者側に過失割合に応じた求償をするという求償の循環を避ける等の理由からです。
この被害者側の過失が問題となった例として、大阪地裁平成12年10月30日判決がありますので、以下でご紹介します。
事案は、5歳男子の原告Xが、原告の母の妹Aの運転する自動車の後部座席に同乗中、一時停止道路から進入してきた加害者Y運転の自動車との衝突事故によって、脳内出血、外斜視等で長期間入通院をした後、中枢神経障害と精神障害の併合二級後遺障害を負ったとして、加害者に対して、損害賠償請求訴訟を提起したというものです。
裁判所は、まず、過失割合に関し、加害者Yには、本件交差点に進入する際、一時停止して左右の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるとしました。他方、Aは、付近まで進行して初めて加害車両の存在に気付いたということに照らし、前方及び左側方に対する注意をやや欠いていたと言わざるを得ないから、前方及び左側方に十分な注意を払って進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるとしました。
その上で、加害者Yが一時停止して左右の安全確認を行えば容易に事故を回避できたこと、Aは、本件交差点に進入する際、時速20㎞まで減速していたこと等を考慮すると、過失割合は、加害者Yが9割、Aが1割と認めるのが相当であると判示しました。
そして、Aは、原告Xの母の妹であり、Aと原告Xは身分上一体をなす関係にあると言えるから、Aの上記過失を、「被害者側の過失」として斟酌するのが公平の観点から相当であると判示して、Aの過失をもって原告の損害額の1割を減額しました。
なお、上記裁判例は、原告Xと一定の親族関係なるAの過失をもって過失相殺を認めましたが、裁判例の中には、逆に、一定の親族関係はあるものの、一体性がないとして、過失相殺を否定したものもあります。
例えば、名古屋地裁昭和47年6月14日判決は、兄の運転する自動車に同乗中、事故にあった妹について、妹が既に結婚して別所帯を構え生活を別にしている場合、兄の過失を妹の損害賠償請求において斟酌するのは相当でないとして、過失相殺を否定しています。
このことから、裁判所では、具体的な身分関係ないし生活関係を総合考慮して、一体性の有無を判断していると言えるでしょう。