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 今回は、被害者が鑑定に非協力的な態度をとったこと等を理由に、後遺症損害の1割を過失相殺によって控除すべきとした横浜地裁平成12年8月24日判決を紹介します。

 事案は、飲食店等を経営する53歳の男性が道路を横断中、速度超過の加害車両に追突され、脳挫傷、左膝靭帯損傷等で長期間の入通院の後、てんかんや痴呆等、重篤な後遺障害を負ったとして、約1億9427万円の支払いを求めて訴えを提起したというものです。

 裁判所は、被害者がてんかんと痴呆の状態にあるが、軽作業をする程度の能力は残存しているものと認められ、一部介助で日常生活動作は可能である等として、入浴、排泄等については介護が必要な5級2号と認定し、左膝動揺関節等の12級7号との併合4級で、余命日数分、日額3000円の割合で介護費用を認めました。

 他方、原告は、病院による鑑定に際し非協力的な態度をとっており、また、原告の症状は妻の死や、将来に対する不安、経済的不安等が影響していると認められ、後遺障害に関する損害については、公平の観点から、過失相殺の法理を類推適用し、その1割を控除するのが相当であると判断しました。

 過失相殺制度(民法722条2項)は、事故の原因や損害の発生・拡大に被害者の過失が関与している場合に、損害の衡平な分担の観点から、損害賠償額の減額を認める制度であり、今日では、被害者及び加害者間の公平感を満足させるための調整機能を果たす制度として、広く利用されています。

 上記事案でも、鑑定に対し非協力的な態度をとったこと等は、損害の発生・拡大に対する被害者の過失そのものとは言い難いものの、被害者のかかる態度や、被害者の将来に対する不安感等の心因的素因が現在の症状に影響を及ぼしていると認められることを考慮して、類推適用(本来の適用場面ではないが、この場合にも当該規定の趣旨が妥当するとして、当該規定を類推して適用することを言います。)という形で、後遺症に基づく損害の1割を減額したものと考えられます。