自動車に同乗していた人がシートベルトを着用していなかった場合、シートベルトを着用していなかったことが損害の拡大等に影響する場合には過失相殺の適用または類推適用が行われます。

 ここで、シートベルトの装着義務は、道路交通法上、運転者の義務とされているので、同乗車両の運転者との関係では過失が観念できないのではないかという問題があります。

 この点について、裁判例(東京地裁判決平成19年3月30日)は、助手席シートベルトの装着義務が社会に定着していること、同乗者のシートベルト装着義務は、同乗者の生命、身体を保護するためのものであるから、同乗者が自らの生命、身体を保護するために当然に負うべき義務と考られ、同義務を怠った同乗者は、自ら交通事故による損害の拡大の危険性が高い状況を作出したといえることを理由として、同乗者の助手席シートベルト不着用を同乗車両の運転者との関係で損害の減額事由とすることを認めました。

 では、平成20年6月1日から装着義務が法制化された後部座席のシートベルト不着用はどのように評価されるのでしょうか。(平成20年6月1日から道路交通法71条の3により全ての座席において、シートベルトの着用が義務化されており、後部座席においてもシートベルトの着用は義務付けられています。但し、高速道路の違反についてのみ、行政処分の基礎点数1点が付され、一般道路では行政処分の基礎点数は付されません。)

 上記裁判例がいうシートベルトの装着義務が社会に定着しているかという観点から後部座席のシートベルト不着用について考えてみます。

 警察庁交通局と一般社団法人日本自動車連盟が平成24年11月21日付で公表した『シートベルトの着用状況について』(警察庁ホームページからダウンロードできます。)によると、シートベルトの着用率は以下のとおりです。

一般道路   運転者 97.7% 助手席同乗者 93.2% 後部座席同乗者 33.2%
高速道路等  運転者 99.5% 助手席同乗者 97.7% 後部座席同乗者 65.4%

 後部座席のシートベルトの着用状況に一般道路と高速道路等で顕著な違いがみられるのは、高速道路の違反には行政処分の違反点数が付くが一般道路の違反には違反点数が付かないことが原因であると考えられます。

 この違反点数が付くか付かないかという違いは、「一般国道では後部座席のシートベルト装着義務違反には違反点数が付かない=一般国道では後部座席のシートベルト装着義務がない」という誤解を生んでいると思われます。

 したがって、この調査結果を踏まえると、少なくとも一般道路における後部座席のシートベルト装着義務は社会に定着しているとまではいえないと考えます(私見です)。

 そうすると、上記裁判例の立場に立てば、未だ一般道路における後部座席のシートベルト不着用については同乗車両の運転者との関係で過失相殺の対象とならないということは十分可能と考えます。

 とはいえ、後部座席のシートベルト不着用者の致死率は着用者と比べて、3.2倍となっているので(『シートベルトの着用状況について』)、安全のためには後部座席においてもシートベルトを着用しておいた方が良く、また、着用すべきことはいうまでもありません(違反点数が付かなくとも法律違反です)。