交通事故の被害に遭って、保険会社から「あなたにも過失があるから損害額から過失相殺をして、賠償金を支払います。」と言われることがあります。典型的には、歩行者が信号無視をした場合や被害車両が交通法規に違反して走行していた場合などに過失相殺を保険会社から主張されます。

 「過失相殺」の根拠は、「被害者に過失があったときには、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定めている民法722条2項にあります。この条文の規定からすると、過失相殺は、裁判所の裁量によって行われることになります。

 しかし、交通事故では、同じような事故類型が多いため、事故の類型によって過失相殺率が設定されていて、その過失相殺率に従って過失相殺をして損害賠償額を決定することが一般的です。なお、過失相殺率は、別冊判例タイムズ16号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」にまとめられています。

 過失相殺で問題となるのが、保険会社が被害者の無知に乗じて、実際の事故類型とは異なる事故類型を示して被害者に過失があると主張することです。

 私が担当した事件で、当初、保険会社が被害者の方に過失が認められる事故類型を示して、保険会社から被害者の方に15%の過失があると主張されていたものがありました。しかし、保険会社が示した事故類型は、実際の事故類型と異なるものであり、実際の事故類型からすると被害者の方の過失は0%でした。

 保険会社は、私が介入し刑事記録を示して被害者の方に過失がないことを主張すると、あっさりと過失相殺の主張を撤回しました。それにより、被害者の方は、当初、保険会社が提示した賠償金額よりも260万円以上増額した賠償金を受け取ることができました。

 過失相殺は、法的な問題ですので、一般の方が保険会社と交渉して覆すことはかなり難しいと思います。そのため、保険会社が過失相殺を主張してきたら、弁護士に相談されることをお勧めします。

弁護士 竹若暢彦