前回は、過失相殺の一般論についてみましたが、今回は自動車専用道路上の複数車両の衝突事故に関して、車間距離を十分保持せずに加害者に追随して追越を開始した被害者に40%の過失を認めた大阪地裁平成3年12月19日判決をみてみたいと思います。
(前回の記事はこちら:過失相殺)
前回みた過失相殺基準「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準全訂4版」では、高速道路上の事故における、たとえば、四輪車同士の事故で走行車線から追越車線へ進路変更する場合について、基本過失は、進路変更車が8割、後続直進車が2割とされています。
この場合、追越車線を走行する車両の速度が走行車線を走行する車両の速度よりも高速であり、進路変更する車両は一層の注意をすべきであることから、進路変更をする車両の過失相殺率を大きくしています。
なお、たとえば、後続直進車に速度違反という修正要素がある場合、進路変更車が進路変更を行うに際しその時機を的確に判断することが困難になることから、後続直進車の過失割合は、10%~20%大きくなるとされています。さらに、進路変更車にも速度違反がある場合には、衡平上、後続直進車の修正を多少緩やかに考える余地があるとされています。
今回みる裁判例の事案は、自動車専用道路において、被害車両が加害車両に追随して追越を開始したところ生じた複数車両の衝突事故であり、前述の過失相殺基準にはない類型となります。
事案の概要は次のようなものです。
加害者Oは、前を行く4トントラックが追越車線に車線変更し、その前を低速で走行中のクレーン車(以下「Y車」)を追い越して行くのを見て、自分も、追越車線に変更し、Y車を追い越すべく、方向指示器を点滅させて追越車線に入ろうとしました。
しかし、その時、追越車線の後方から二台の大型車両が接近しつつあったため、Oは、この2台が通過した後に追越車線に入ることにしましたが、追越車線に変更するまえにY車に追いついてしまい、Y車に衝突しました(第1衝突)。
第1衝突の後、O車は減速しつつも走行していたところ、後続の原告車がO車に衝突しました(第2衝突)。
原告車が第2衝突後右斜め前方に進行してさらに追越車線にはみ出したところ、後方から接近してきたS車と衝突し(第3衝突)、結果原告車は走行車線に停止しました。
以上の事実関係のもと、裁判所は、原告の過失及び過失割合について以下の認定をしました。
原告車は、O車の後方の走行車線上を毎時80キロメートル前後の速度で走行中、前方のO車が、追越車線を後方から来ていた二台の大型車の通過後、方向指示器を点滅させながら追越車線に車線変更しようとしていたのに追随し、O車との間に十分な車間距離を保持しないまま追越車線への車線変更を開始したところ、O車が前記の第一衝突により急減速したため、その直後、O車に追突し(前記第二衝突)、さらに丁度そこへ追越車線を走行してきたS車とも衝突したもの(前記第三衝突)と推認することができるものである。
したがって、第二衝突及び第三衝突は、原告が車間距離を十分保持せずにO車に追随して追越を開始した過失もその一因となっているものと解すべきである。
前記衝突態様並びに双方の前記過失内容を総合勘案すると、本件事故の発生における被告Oと原告の過失割合は、それぞれ6対4とするのが相当と認める。
なお、本裁判例では、制限速度違反の点については、双方ともに認められるので、右認定の過失割合を増減する事情とはならないとされています。
弁護士 髙井健一