皆様こんにちは。弁護士の菊田です。

 本日は、労災と過失相殺に関するお話です。

 交通事故の被害者に労災が給付された場合、損益相殺により、給付額については損害賠償額から控除されるというのが一般的な考え方です。

 では、被害者が労災を受給し、かつ、過失相殺によって賠償額が減額される場合、どのように過失相殺されるのでしょうか。

 この点に関しては、2つの考え方があります。

 1つ目は、損害賠償額から労災給付額を控除した金額につき過失相殺をするという考え方です。例えば、賠償額が100万円、労災給付額が30万円であり、被害者の過失が10%、加害者の過失が90%であった場合、計算式で表すと、

(100万-30万円)×0.9=63万円

が被害者の受け取る金額になります。

 2つ目は、労災給付額と過失相殺を切り離して考えて、損害賠償額についてのみ過失相殺をするという考え方です。上記の例で考えると、

(100万×0.9)-30万円=60万円

が被害者の受け取る金額になります。

 このように、前者の考え方の方が、賠償金額が大きくなるので、被害者保護の観点からは、前者の考え方をとるべきであるように思います。

 しかし、裁判所は後者の考え方をとりました(最高裁平成元年4月11日判決)。この判決には伊藤正己裁判官の反対意見が付されていることからも、当時から争いのあった点であったと思われますが、現実としてこのような判決が出てしまったため、以降、実務はこの最高裁の考え方に従っています。