物損事故で過失相殺が問題になったときも、前回の記事で紹介しました別冊判例タイムズ16号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」の事故類型ごとに設定された過失相殺率に従って過失相殺の判断をすることが一般的です。
しかし、過失相殺の判断をする際に、物損事故と人身事故では大きな違いがあります。それは、警察が行う事故状況の記録にあります。
人身事故では、実況見分調書という道路状況、交通状態、事故当時の天候など事故状況の詳細を記録したものが作成されます。前回の記事でも書きましたが、実況見分調書をもとに保険会社が主張する被害者の過失を覆すことができたということもありました。
一方、物損事故では実況見分調書は作成されません。その代わり、物件事故報告書というものが作成されることが多いようです。この物件事故報告書というものが厄介でして、人身事故は警察から検察に事件が送致されることが多いので、割としっかりと実況見分調書が作成されているのですが、物損事故の場合には、警察から検察に事件が送致されることはほとんどないということもあり、かなり適当に作成されていることが多いようです。
そのため、物損事故でいざ過失割合について争おうとしても、争えるだけの正確な資料がないことが多く、非常に苦労することが多いです。しかも、実況見分調書は、被害者本人が謄写申請をしたら謄写することが可能なのですが、物件事故報告書はほぼ不可能だと思います。今まで、被害者の方に警察へ物件事故報告書の謄写に行ってもらっても1度も成功したことがありません。
そうすると、あとは弁護士会照会といって弁護士会を介して警察に物件事故報告書の照会をかけるのですが、警察が照会を拒否することがあります。それでも、警察に強く働きかけて照会に応じてもらうようにするのですが、物件事故報告書の写しではなく、一部を転記したものしか出してこないこともあったりします。
このように、物損事故で過失相殺を争おうとしても、争うだけの手段が手に入らず、別冊判例タイムズ16号の事故類型ごとに設定された過失相殺率で過失相殺をまとめることもあります。なので、警察の方には、ぜひ、物損の場合でもきちんと事故状況を記録したものを作成していただきたいと思います。
弁護士 竹若暢彦